フィクション

[ネタ]「バナナはおやつに入りますか」を公的機関に聞いてみた。

図書館で聞いてみた:

一般人「バナナはおやつに入りますか?」

図書館員「遠足ですか? それなら「教育」ですね。NDCなら374(学校経営・管理、学校保健)、376(幼児・初等・中等教育)になりますので、そのあたりの資料をご覧ください。「おやつ」については、「食品・料理」(NDC:596)の棚をご覧ください。「バナナ」についてお調べでしたら、園芸の分野に入りますので「果樹園芸」(NDC:625)をどうぞ。」

一般人「質問の答えになっていない。入るのか入らないのか」

図書館員「当館のレファレンス規定により、宿題・クイズ・懸賞等の質問にはお答えできないことになっております。」

役所に聞いてみた:

一般人「バナナはおやつに入りますか?」

役所「当該の問については所論あるが、いわゆる「おやつ」に含まれる食品等の定義が明らかになっていないことが問題であると考えられる。これに対応するため、「おやつ」に含まれるべき食品等について正しい理解と啓蒙及び国民間での認識の共有を図るほか、このための人材育成が急務であると認識している。なお、「おやつ」とその周辺知識の理解増進にあたっては、NPO法人「日本おやつ普及協会」(仮称)など関連団体の知見を活用し、一定の知識を有する者については「おやつマエストロ初級/上級」(仮称)の民間資格を与えるなど、普及啓蒙等の活動を推進する方向で検討を進めていると聞いている。政府においては、食品産業全体における「おやつ」の活性化を図る「おやつ普及啓蒙促進事業」などの制度を活用し、これらの活動の加速化を図っている。」

一般人「質問の答えになっていない。入るのか入らないのか」

役所「「おやつ」の詳細については、「日本おやつ普及協会」に問い合わせされたい。」

国会で質問主意書を出してみた:

質問主意書「バナナはおやつに入りますか? 右質問する。」

答弁書「ご指摘の「おやつ」の内容が明らかでないため、お答えすることは困難である。」

再質問「質問の答えになっていない。入るのか入らないのか。右質問する。」

答弁書「ご指摘のいわゆる「おやつ」については、全国の小中学校等において遠足、修学旅行など課外活動の際に独自に内容等が定められており、すべての事例について網羅的にお答えすることは、関連する情報を取りまとめた資料が存在せず、また新たに調査を行い確実な調査結果を得るためには膨大な作業を必要とすることから困難である。」

…なんか流行のようなので書いてみました。

元ネタ:


でもガチなレファレンスで聞かれたらNDC374, 376あたりを調べるのかなあ。786(戸外レクリエーション)あたりも見たほうがよいのでしょうか。うーん。


新年最初のエントリがこんなんで。年末は休暇に入ってからすぐ風邪を引き、冬休みいっぱいほぼ寝込んでました。で、2学期(大学院でも一応講義科目があるので)のレポートを今になって提出したりとさんざんな正月休みでした。


図書館退屈男の謎(後編)

 (承前)

 茨城県の研究学園都市。最近、鉄道が開通して便利になったようだが、彼の職場は1時間に2本しか電車の止まらない駅からバスで15分。十分不便だ。

 雑木林に囲まれた研究所群の中に、彼の勤務する図書館はあった。一見、森の中にあるようにも見える。人目を隠すにはよさそう、とも思う。何もはばかることはなさそうだが。
 紹介されたとおり、図書館のカウンターに出向く。人影の少ない図書館。カウンターにいた女性に挨拶すると、すぐに彼が現れた。実在したのだ、と実感する。何故だろう。何か違和感を感じた。

 早速、こちらのセミナーの企画について打ち合わせる。テーマは「OPACとXMLを連携させた新サービス」になった。彼の得意なテーマのようだ。いい加減、「Web2.0」などというのは陳腐だと思う。うまくまとまりそうだ。
 その後は雑談になった。お茶をいただいた。何でも、九州の研究所で開発した新品種で、紅茶用の品種を緑茶にして花粉症を緩和する成分を濃く抽出したそうだ。延々と能書きを聞かされた割には、味はいまひとつだ。それに自分は花粉症じゃない。
 彼の試している様々なサービスなどを拝見した。なるほど、確かに興味深い。あちこちから講演依頼もあるわけだ。「利用者の一番近いところでサービスを展開する。」それでブラウザにOPACの検索用プラグインやLibXのようなツールを仕込む。これは新しい。

 さて、そろそろ核心に迫るとしよう。普段の仕事について尋ねた。このカウンターで、レファレンスを担当しているという。Web2.0を標榜するような彼がレファレンス? 利用者相手にあれやこれや支援したり、電話やメールで各地、時には海外から舞い込んで来るレファレンスに対応し、時には国立国会図書館のレファレンス協同データベースに登録もしているという。にわかには信じられないが、こちらが「本業」のようだ。図書館員らしい仕事だ。
 館内を見せていただく。まあ、普通の図書館だ。蔵書の種類は研究報告など灰色文献に偏ってはいるが、専門図書館ならこんなものだろう。

 続いて、計算センターも見せてくれるという。機械にはあまり興味はなかったが、「折角ですから」と愛想を浮かべ、後に続く。小柄な計算センターのスタッフが現れた。システム専門官だと紹介された。「彼」は用事でもあるのか、すぐ戻るといって去っていった。失礼な奴だ。
 「ディスクの総量は500TB以上、スパコンの稼働率は…」空調がよく効いた、寒いマシンルームで機器類とスペックを自慢げに紹介する。呪文のようだ。眠い。正直、機械やらネットワークことはよく分からない。凄いという事だけは分かった。こんなに資源があるのなら、図書館退屈男とやらもテストやらなにやら動きやすいし、理解もあるのだろう。思いついた。そうだ、こいつに聞いてみよう。

 「図書館退屈男って、ご存知ですか? あのblog。」軽い冗談のつもりだった。「ええ」との返事。意外だった。職場にばれているのか。しかし、計算センターの男の顔は一瞬ピクリと強張った。「もうちょっと奥もご案内しますよ。」そう言うと、男はカードキーと暗証番号でロックされた扉を開け、暗い部屋へと私を案内した。
 ガチャリと大きな音を立て、扉が再びロックされた。電気がつけられた。やはり空調の効いた広い部屋。19インチのラックに詰まった機器類。赤緑白のLEDが激しく明滅を繰り返す。その中央に、まるで墓標のような黒い立方体が息をするかのように静かな音を立てていた。

 「これが図書館退屈男です。」計算センターの男はそう言った。その立方体に張られた、「t…@a….jp」とメールアドレスが殴り書きされた紙が空調で揺らめいていた。こいつは何を言っているんだ。目の前には黒い金属の箱しか見えないぞ。「5年前、彼は交通事故に遭い、」男は続けた。「体を失いました。」そいつは気の毒だな。死んだのか? 「ちょうど昆虫の脳神経系をスパコン内で仮想的に再現する研究プロジェクトがあって」ああ、昔そんな記事を何かで読んだな。「ニュートン」かな。いや、「make」だろうな。こんなネタ。「その成果を人間に応用したのが、このシステム…彼です。彼の脳と神経系をこの中でほぼ完全にエミュレーションしています。」

 気が付くと、その彼…図書館退屈男が後ろに立っていた。よくラックを見ると、中に彼と同じ…まったく同じ風体の人形が中に居た。しかも数体。こいつら、気でも狂っているのか。「今、彼の記憶を各個体と本体間でシンクロさせています。20時間ぐらいかかりますね。一日の行動でも、かなりの情報量になりますから。」何を言っているんだ。訳が分からない。「2005年にXML-RPCを実装して、blogが直接書けるようになったんですよ。すごいでしょ。それがあのblog。」XML-RPCって、blogを自動投稿する、アレか?「メールなどは直接SMTPで送受信しています。」それで返事が異常に早いのか。

 ちょっと待て。納得するなよ。自分。

 なら後ろに居るお前は、だれなんだ? 機械が講演や懇親会の司会までできるわけないだろう。「彼とそのラックの中の彼らが産総研と理研、計算センターで共同開発した図書館退屈男の対人用インターフェースで、通常は自立的に稼動しています。目の前にある本体から制御しているほか、必要に応じてつくばWAN経由で各研究所のスパコンと連動、図書館退屈男として稼動します。」はあ? 対人用インターフェース? どこかのラノベか?「こうやって記憶をシンクロさせつつ、毎日交代で稼動させています。もうちょっとバッテリが持てば数日は動けますが…」出張とかはどうするんだよ。「大容量バッテリを積ませています。体重が増えるのが難点ですが。エレベータとかは避けるように指示しています。」ノートパソコンかよ。まあ、同じようなものか。一人で重量オーバーにでもなるのか。バッテリ、どんだけの重さだ。大体、この間の長崎の講演では、彼がPCいじって講演してたぞ。「彼の中に各携帯電話キャリアのSIMを実装、最適な通信環境を自動選択して通信します。必要があれば、衛星通信用のデバイスに交換します。これで、この本体から送信される原稿データを受信してリアルタイムで読み上げます。PCもIEEE802.11aやBluetooth経由でリモートから操作できますが、不自然なので直接操作させます。」まあ、そうだよな。質疑応答は?「それくらいは各個体上の記憶を元に自立的に判断して回答します。必要があれば、本体に問い合わせます。」それで時々吃音があるのか。「そういう実装にして回答までのタイムラグをごまかしています。」「雑誌原稿やblogは本体にVMwareを立ち上げ、その上でWindowsXPを動作させてWordで執筆、メールなどで投稿しています。試験用のFedoraとかUbuntuの環境も彼にはありますよ。」ややこしいな。複数のOSを自分の中で動かしているのか。「本当はあまり外には出したくないのですが、怪しまれるといけないので仕方なく…。」ネットでしか見かけない、というのはそういうことか。

 そこまでして何のメリットがあるのか。しかも血税を使って。これは何かの冗談で、本当は人間なんだろう? なあ、そう言ってくれよ。図書館退屈男は人間だって。実在するって。いや実在はしているのか。機械として。

 「おしゃべりが過ぎましたね、専門官。」図書館退屈男…いやそう名乗る人間型の物体が喋りだした。「今は総合科学技術会議直轄の研究プロジェクトに格上げですよ。予想よりはるかにいい成果が出ましたから。」いい成果? この人形が? 

 やっぱりこいつらは狂っている。対人用インターフェースつきスパコンなんてありえない。マジで。冗談はいいからここから出せ。頭がおかしくなりそうだ。いや、本当に痛くなってきた…。「あのお茶、花粉症緩和のほか、遺伝子改良で催眠誘発効果もあるんですよ。記憶に障害が出ることと、薬事法に引っかかるので研究は中止になりましたが。」さっきのお茶か。能書きはもういいから、とにかく味は何とかしたほうがいい…。

 …気がついたら秋葉原行きの電車に乗っていた。北千住まで来ていた。きっと帰りに眠り込んでしまったのだろう。夜、自宅で図書館退屈男のblogを読む。来客があり、講演の相談をしたと書かれていた。情報が早いな。

 次に図書館退屈男に会ったら、ぜひ聞きたい。「ネットでしか見ませんよね…」


図書館退屈男の謎(前編)

 私が彼と初めて会話を交わしたのは、とあるセミナーの懇親会だった。ネットではよく見るが。

 講師をしていたある女子大図書館のチームリーダーと名刺交換をしている姿が、そこに見えた。
「…さんって、本当にいたんですね! ネットでしかお見かけしないから、本当にいらっしゃるとは思いませんでしたわ。そう言われません?」彼は軽妙にその問いをかわし、「ええ、よく言われますよ。」とにこやかに答えていた。別の大学の女性は、「このセミナーに出たい、とSNSに書き込んだら、すぐに彼から「まだ大丈夫ですよ。」と書き込みがあって。もう締め切りは過ぎていたのですが、事務局に電話したら大丈夫だといわれて。おかげで助かりました。」と話しかけていた。

 確かに、彼の名前はネットでしか見ないような気がする。続いて名刺交換をさせていただいた。当然だが、そこには実名と勤務先等が記されていた。ああ、実在したんだ。そうだよな。そのときは気にも留めなかったが。
 別の講師で、国内外の図書館に関する記事をblogやメールマガジンで紹介するサービスを行っている図書館の編集担当者とお話しすることができた。「オープンソース系のネタを紹介すると、彼…言っていいのかな…図書館退屈男さんのblogに「試してみました」とそのソフトをレビューした記事が載るんですよ。割とすぐに。」「おかげで、読んでもらえている実感もあるし、実績にもなって上も喜んでいます。」すぐに、か。きっと暇なのだろうな。退屈男と名乗るだけのことはある。

 2時間ほどで懇親会はお開きとなった。自宅に戻り、彼…図書館退屈男のblogを読み返した。確かに、IBM OmniFindだのLibxだのといったソフトウェアのレビューについてはレスポンスが早い。だが、早過ぎやしないか? どう読んでも、記事を読んでからすぐテストしているように見える。Googleツールバー用検索ボタンに至っては、それを京都駅のマクドナルドで知ってその場で開発したとある。どこにコーラS(100円)だけでそんな作業を、しかも氷が完全に溶けて水になり、それまで飲み干したまま作業する人間がいるのか。非常識だ。100円のコーラぐらいおかわりしろ。PORTAのべた褒め振りもありえない。あの記事だって、公開直後だ。そういえば、別の女性も「すぐに返事が」と言っていた。どうも変だ。ちゃんと仕事しているのか。気になってきた。

 翌日。上司からセミナーの企画をするよう命じられた。テーマは何でもいいそうだ。ちょうどよい。「彼」に頼んでみよう。実績もあるようだし、何か面白い話でも聞けるだろう。
 早速、名刺に会った連絡先に電話をかけた。ところが、女性の声で「ただいま会議中で…午後も予定が…」とのこと。意外と忙しいのだな。後でメールをする、と言付けて電話を切った。結局、その日はこちらも業務に忙殺され、メールはできなかった。

 翌週。メールでは細かい調整は不便だ。先に電話をして、詳細はメールで送ることにしよう。そう考えていると、受話器からは先日の女性の声で「今日は東京に出張しておりまして…」。仕方がない、また後でメールをする、と言付けて電話を切った。こちらも時間がない。今度はすぐにメールをしたため、送信した。驚いたことに、3分後に返信があった。詳細は上司に確認しないと分からないが、日程と内容はOKとのことだった。どこにいるんだ。まあ、最近は携帯電話からでもメールは読み書きできる。まめな人なのだろうな、ぐらいにしか思わなかった。
 ところが、その考えはすぐに打ち破られた。1時間もしないうちに、「上司の了解が取れた。追って様式を送るので、文書で派遣依頼をいただきたい。」との返信がメールであった。どこに出張しているのか。いつ上司と調整したのか。おかしい。カラ出張か? そうだ、実際に会ってやれ。ぜひお会いして打ち合わせしたい、と返信した。これにもすぐ返信があり、OKとのことだった。このレスポンスの速さは異常。やはり何かある。

 こうして、私は彼の職場へ見学も兼ねて出向くことになった。そこに何があるのかも知らずに。

 (続く)