図書館界動向

「日本図書館専門職員認定制度予備審査」なにそれおいしいの?

かつて「上級司書」とも呼ばれていたアレが、専門職員認定制度となりました。
まずは予備調査で、1月31日が締め切りです(必着)。詳細は日本図書館協会のWebサイトをどうぞ

予備審査は,本格的な実施に先駆けて,認定申請を予定する司書有資格者(通算10年以上の図書館勤務歴を持つ方)を対象に認定要件の充足状況を確認し,認定作業が実現できるようにするための言わば「予行演習」のようなものです。

ということで、日本図書館協会会員であるところの図書館退屈男も挑んでみました。

早速「予備審査の対象」をチェック!

1. 地方公共団体職員・それに準ずる者

*おおっと*

いきなり壁の中にテレポート。国家公務員は「準ずる者」なのか否か。
確認したところ、おそらく大丈夫らしいのですが…。

2. 図書館勤務経験年数10年以上の者

これはクリア。今年で16年目に入りました。常勤/非常勤の別は問わないそうです。これは評価できます。

3. 最近10年以内に以下のいずれかの条件を満たしている者

a. 日本図書館協会の「中堅職員ステップアップ研修(2)」を修了していること
b. 国立教育政策研究所社会教育実践研究センターの「図書館司書専門講座」(国立社会教育研究所時代も含む)を修了していること
c. 研修の受講(半日<2-3時間程度>を1ポイントに換算)、研修・大学での講師の経験、社会的活動、大学院等の図書館情報学関連の単位・学位等の取得でポイントに換算して通算20ポイント以上を得ていること

「c. 研修の受講」しか該当しないなあ。a.とb.は公共図書館でないと受講できないような気がしたし。

4. 最近10年間に論文を発表(もしくは予定)している者

邦文でかつ査読なしが多いのですがよいですか?
査読つきは予定ならありますが。

まあ、とりあえず「専門職員認定予備審査用申請書類」を書いてみましょう。

ますは履歴書。職歴とかありますからね。書かないと。
「2.図書館勤務歴:」があったのでこれかな…念のためマニュアル(MS Word文書)をチェック。

2.2.図書館勤務歴

図書館法でいう公立図書館での勤務経験を年月でお書きください

「図書館退屈男終了のお知らせ」なのでしょうか。
…うちは公立(公=国含むの意味で)ですが図書館法は根拠法令じゃないよう。
挫けずにもうちょっと読もう。

2.3. 「公立図書館」以外の図書館及び他の類縁機関等における業務

「『公立図書館』以外の図書館及び他の類縁機関等における業務」とは以下の勤務を指します
・「公立図書館」以外の図書館での勤務(セクターや設置母体は問いません)
- 大学図書館、専門図書館、学校図書館

こっちに入るのか。なぜ差別するのか。意味がわからなーい。
文句を言っても仕方がないので、所定の場所に職歴を記入。一行ですが何か。

次。「研修受講等履歴書」。罫線多いなあ。書誌事項はSIST-02準拠にして罫線なくしてほしい。

3.1.図書館年鑑掲載研修・研究集会

過去10年以内に「図書館年鑑」に掲載されている研修・研究集会に出席し、受講した経験がある方は、"1.図書館年鑑掲載研修・研究集会"に記入してください

過去10年分の「図書館年鑑」をひっくり返して確認しろと。当館所蔵分は該当号が一部欠号なので、大学の図書館まで調べに行きましたよ、ええ。
だって、

図書館年鑑は年刊ですので、それぞれの研修・研究集会が行われた年の図書館年鑑を必ずご確認してください。

というトラップが仕掛けられているよ! 年によって掲載されたりされなかったりする研究会があるよ!
図書館年鑑未掲載の研修も別項で書けるのですが、10年前の出張なんで記憶し切れていない。旅行伺を10年分確認するかな。
ちなみに、ポイントは「0.5日で1ポイント、1日で2ポイント」。
「中堅職員ステップアップ研修(2)」や「国立教育政策研究所社会教育実践研究センターの「図書館司書専門講座」(国立社会教育研究所時代も含む)」は全日程で20ポイント。そうか、これを10年のうち1度受講していればOKということだね。

3.3.研修等講師経験

こちらは図書館年鑑記載でなくてもOKの模様。ただしポイントのつけ方が細かいです。

  • 1時間未満の講演の講師のみ(単独):0
  • 1時間以上から3時間程度講演の講師(半日程度)(単独):2
  • 4時間以上の講師(全日程度)(単独):4
  • 講演及び全体討議やシンポジウム等でプログラムに関与している時間が2-3時間程度(複数):2
  • 講演及び全体討議やシンポジウム等でプログラムに関与している時間が4-6時間程度(複数):4

4-6時間程度の講師って、何? 図書館大会の分科会?
ディスカッション等含めて1時間以上かあ。まあ、計算してみましょう。

3.4.大学院での関連諸領域講義科目の単位修得経験

これから取ります。

3.5. 司書課程もしくは関連諸領域講義科目の講師経験

ないです。

3.6. 大学院における図書館情報学関連の学位取得

あと2~3年待ってもらえれば…。

3.7.学協会研究大会口頭発表、実践報告発表等

自主的な学会発表等はこちらでカウントするそうです。どんなところで発表しても1ポイント。
依頼されての講師と自らエントリする学会発表。どちらを重視しているのでしょう。

3.8.社会的活動

過去10年以内に、図書館関連団体の役職経験等、図書館の普及もしくは図書館職員の専門性の認知向上のための社会的活動に従事した経験がある方は、"8.社会的活動"に記入してください

あー、医学情報サービス研究大会の実行委員とかしましたから、ここに記入できますね。

3.9.著書、論文

過去10年以内に著者、論文の執筆経験がある方は、"9.著書、論文"に記入してください

論文の場合は第1著者のみだそうです。
これもそれなりにありますが…あれ、ポイントはつかないのですか…。「1報でも書いてあればいい」ということなのでしょうか。

講師依頼の文書や委嘱状を引っ張り出し、電卓叩いて集計出ました。

120ポイント以上ありました。すみません(なぜか低姿勢)。

余裕でクリアできるいいのですが。とりあえず書類一式は発送済みです。

全体を通してみると、やはり公共図書館職員かつ研修経験を多く積まれている方は高く評価されるようですね。
医図協のヘルスサイエンス情報専門員は、継続教育(各種研修受講)や単なる会議参加は加算できるポイント数に上限があり、講師や論文執筆のポイントが高いのでどちらかというと研究的要素重視といえます。
このあたり、公共図書館と専門図書館では求められる資質が異なる、ということになるのでしょうか。

(一応)館種を超えた職能集団である日本図書館協会の資格であれば、すべての図書館員を等しく対象とし司書として求められる普遍的な能力を認定するもの、と考えますがどうなのでしょう。
目録作成やレファレンスの実技とか…それはありえないなあ。でも特定の研修受講1回で10年分の経験値getは…うーん。

ポイントを頂いておいてなんですが、「社会的活動」で「日本図書館協会またはこれに準ずる全国的図書館組織の理事以上」で大きなポイント加算(6ポイント)があるのは違和感を感じました。それらの役職は各種委員会委員と異なり、言うまでもない重責であり、またそれなりの知見を得た方が着かれる職であることは理解しますが、そういう方でしたらおのずとそれ以外の項目で加点があるとも考えられます。「役職給」的な要素は不要ではないでしょうか。

「実践的な取り組み」は評価してもらえないのでしょうか。論文や講師などで公表する場合もあるでしょうが、その中身を客観的に評価する、例えばマスコミに取り上げられた、他所から顕彰されたなど、館界以外からの評価を取り入れる必要はないのでしょうか。でも、この手のはどちらかというと個人より組織にポイントが行きそうですね。事例が少なそうですが。

考えてみると、「評価」って難しいですね。研修の参加回数や発表回数のカウントはできますが、その内容を問うのは研究会や研修の「格付け」にも繋がる話ですし。あ、「格付け」があれば、出張の可否の判断基準にはなるかもしれませんね。

アメリカみたいに「MLS必須」のほうがいっそすっきりしそうですが、国内の現状ではそうは言えないし。

もういいや。

の4冠で「スーパー司書」と名刺に書ける、とかしましょうよ。(あ、1級落ちたんだった。)


偽装係長と上級司書

もう数年前ですが、某市立中央図書館勤務の同期(Oさん(仮名))とこんな話をしていました。

O「…俺、今度主任に昇格するんだ…。」(死亡フラグ?)「部下も付くし、ちょっと出世だね。」
図「フムン…自分、係長になってもう数年ですけど何か。」
O「マジ?!」「係長!」「すげえ出世!」
図「マジ。でも部下はいないよ。係には自分ひとり。あとは非常勤職員1名。」
O「マジ?!」「一人の係?」「ありえない。」「普通、部下いるでしょ。」
図「それがね、いないの。」
図「部下のいる主任といない係長、どっちがいい?」
O「そりゃ部下がいる方でしょう。」
図「だよねー。」

ということで、図書館退屈男、係員いません。今風に言うと偽装係長?。お給料は係長だけど、仕事は係員+係長。雑務もあれば起案、折衝もあり。でも裁量権は課長補佐。俗に言う「係長行政」から「課長補佐行政」に移行しつつあるといってもいいでしょう。本店あたりも同様で、係長も係員も一兵卒扱いで事業を動かすのは班長=課長補佐です。社によって違うかもしれませんが。
小池田マヤ先生が描くところの「ときめきまっくん!」他各種4コマOLマンガのように、一緒に残業してくれてEXCELやPowerpointで資料を作ってくれて料理が上手な(←関係ない)アシスタント的な部下って、どこにいるんでしょう。誰か教えてください。「すぎなレボシューション」系の係長のお姉さまは多いのですが。自分はどちらかというとまっくん派です。

係員は欠員ではなくて、定員的にいません。ていうか課で係員は2人しかいません。絶滅危惧種です。スキルの継承とかそんなのもうできません。構成比で言うと、おおむね

課長/課長補佐級:係長:係員≒3:3:1

です。ちなみに、図書館退屈男採用時(15年前)はだいたい

課長/課長補佐級:係長:係員≒1:2:1

でした。当時の係員は4人。今では頭が大きい組織になってしまった、ということ。

そんな中でid:humotty-21さんの「図書館学の門をたたく**えるえす。」のエントリ、「10年の「経験」が保障する司書の能力」を読みます。

まとめると、

で、タイトルから大体想像がつくかもしれないが、このエントリで言いたいことは、「10年の「経験」が保障する司書の能力は、資格認定に本当に必要なのか」ということ。そんな条件はなくなればいいのにと私は思っているのです。10年とかふざけるなよと。

ということです。

10年働けばそれなりにスキルが身に付き、順調に行けば主任/係長級に昇格する頃合でしょうか。問題点はブクマコメントにもあるように、

「じゃあ、これから図書館に就職して10年働ける人間はいるのか?」

に尽きます。弊社とて退職者の後は定員削減で係員ポストは純減、しかも「定員削減=仕事を削減する」ことなので、場合によってはその穴を派遣職員や非常勤職員で埋めることすらままなりません。最後は図書館サービスの質と量を落とすしかないでしょう。

大量の遡及入力などを行う場合は、役務として図書館のアウトソーシングを受託する会社にお願いします。当然、競争入札なので契約金額は詰めて詰めて各社入札に臨みます。そして、落札金額から実際に働く人の時給は予想が付きます。もっとも、「われわれの館」などに求人が出るのですぐわかりますが。こんな時給で、といつも思います。

働き振りを見ます。優秀な、それこそ採用したいくらいの人はいます。でも採用枠を我々は持っていません。その権限もありません。労働組合は「不正規雇用対策」を声高に訴えます。でも、その「不正規雇用」を生み出しているのは自分たち正規職員。なんという矛盾。通り過ぎるシュプレヒコールの波。中島みゆきの「世情」を日々口ずさみます。

それでも夏の司書/司書補講習、大学の司書課程受講者などで司書有資格者は増え続けます。(冒頭のOさんは大学で司書課程を受講していなかったので、夏の講習で取得しました。)「司書になりたい」人は増えるばかりです。でも受け皿はないのです。

さて、「上級司書」と同様の資格として、日本医学図書館協会の「ヘルスサイエンス情報専門員」があります。初級、中級、上級とありますが、上級の認定要件の一つは「ヘルスサイエンス分野の図書館あるいはそれに準ずる施設で、10年以上の勤務経験」です。
その他、協会主催の講習会及び協会指定の研究会等の参加、学協会への委員としての参画、論文発表の回数などをポイントとして計算し、上級の初回申請には「過去5年間で100ポイント以上(更新は70ポイント)」が必要です。そうそう確保できるポイントではありません。詳細な要件は「申請の手引き」をご参照ください。

以下、上級の認定者数の推移を抜き出してみました。(「認定資格「ヘルスサイエンス情報専門員」申請及び認定数」より。日付は受付日、カッコ内は認定者数のうち初級/中級/上級/合計を表す。)

  • 第1回(2004/02):32  (16/12/32/計60)
  • 第2回(2004/07):9   (5/4/9/計18)
  • 第3回(2005/01):6   (7/4/6/計17)
  • 第4回(2005/07):4   (4/2/4/計8)
  • 第5回(2006/01):2   (15/5/2/計22)
  • 第6回(2006/07):11  (7/10/11/計27)
  • 第7回(2007/01):0   (10/0/0/計10)
  • 第8回(2007/07):0   (2/0/0/計2)
  • 第9回(2008/01):0   (12/0/0/計12)

本来は初級から順に取得する認定資格ですが、経過措置として第6回までは相当のポイント数があれば中級、上級の申請を行うことができました。このため、この措置が終わる第6回の認定者も多かったものと思われます。合計すると、現時点では64名の上級資格所持者が存在することになります。初級は78名、中級は37名です。

勤務地が「ヘルスサイエンス分野の図書館あるいはそれに準ずる施設」に限られていること、上級に限って言えば費用(非会員初回認定審査料:22,000円)、比較的高いハードル(原著論文執筆(日本語単著で20-30p)、全国レベルの会議の演者として登壇(10p)、あるいは研究会等参加(5p/半日,最大20pまで)など、5年で100ポイント必要)などから考えると妥当なところかもしれませんが、それでも64名。これから初級から順に取得するとしても、8,9回あたりでせめて中級に取得者がいてもよいように思います。それとも、そのくらいのスキルの人は、このあたりで「打ち止め」なのでしょうか。今後の推移を見てゆく必要があるでしょう。

こうして、資格により現職者と数少ない新規採用者は差別化されます。また、非正規雇用では、このような資格を取得することすらままなりません。
しかし、「上級司書」が設定されたとして、現職者でもどのくらいの人が取得できるのか、上の例からも疑問はあります。ただ10年普通に働いても取得できるのか、ヘルスサイエンス情報専門員のようにそれなりの自己研鑽を積まないといけないのか。無論望ましいのは後者で、単なる既得権の保護にしてほしくはありません。

上級司書になっても、業界内の評価で終わり職場内、特に人事権のある管理者や業務の査定に当たる行政部局の評価が得られるようなものでないと無意味でしょう。仲間内で褒めあっていても、対外的な評価にはつながりません。「持っていれば図書館に優先的に配属、しかも資格手当て付き」なら大歓迎ですが。

話は資格に限りません。様々な協会の表彰制度も、「永年勤続ご苦労様でした」的なものが多い印象があります。学会などにあるような若手を奨励するような表彰制度を作ってほしいものです。その「若手」がいないのがそもそも問題なのかもしれませんが。

どうすれば若い人たちを応援することができるのでしょう。何が応援になるのでしょう。どうすれば彼らのスキルを上げ、願った職に就けるようになるのでしょう。幸いにも、今はblogなどで発言する方が増えてきました。ネット上に留まらず、もっと公の場で発言できる機会を作れば何か変わるのでしょうか。誰もが疲れて、何もできないのでしょうか。

「本に囲まれて働きたい」という漠然とした希望を、「xxx図書館の上級司書のような仕事がしたい」のような具体的な目標に変えるにはどうすればいいのでしょうか。現職にある者は、何をすればいいのでしょうか。上級司書とやらは、その現状を打破するものになるのでしょうか。

長々と書いたわりにはまとまりません。

図書館退屈男は、あちこちで(たまに)よしなしことを書き綴ることと、システムをちょこちょこといじって新しいことを始めてみるくらいしかできません。