海老名市立中央図書館に行ってきました

日々記―へっぽこライブラリアンの日常―の中の人と海老名市立中央図書館に行ってきました.館内のようすとかも前後編豪華イラスト入りで紹介されておりますので,併せてご参照ください.

CCC及び図書館流通センター(TRC)の共同事業体による指定管理者での運用で2015年10月にリニューアル,すでにメディア等でその分類や選書について議論がある図書館である.

建物のロゴからWebサイトに至るまで統一されたフォント.静かな空間とさりげないBGM.暖色系で統一された照明.そんな空間で飲み物を頂きながら居心地のよい椅子に座って勉学に励み読書をする.公共施設によくある創英角ポップ体で書かれた統一性のない注意書きなど張り物はない.年中無休.

それで一体何が悪いのか.夕方の館内に空席は少ない.スターバックスからか,「こんばんは」の声が静かに響く.

確かに採用されているライフスタイル分類はNDCに浸かった頭では一見,わかりにくい.明らかな分類の誤りも散見される.だが背ラベルとは別に背表紙に詳細な分類が記されているので配架はおそらく困らない.サインもしっかり書架にはなされている.あとは慣れの問題だけなのか.

館内の一カ所に腰掛ける.円形の2階ホール.見上げる書架の手が届かない上層には「神奈川県史」などの郷土資料.下層には料理・食材の図書が並ぶ.そこで返却本の再配架のようすを眺めていた.

同じ職員2名程度が資料を小脇に抱えて繰り返し配架に訪れる.量があるならブックトラックで資料を運び込んでまとめて返却したいところだが,そうではない.見るとほかの職員も両手で10~20冊の資料を抱えて階段を上がって別のフロアへ移動している.書架間隔は芯々距離でおおむね180cmはある.少なくともこのホールではスペースの問題は無用に見える.「雰囲気」優先で大きなブックトラックの運用を避けて手で配架を行っているのか,ため込まずにスピード優先で配架なのか.

料理本のコーナーなので著名な料理研究家が並ぶ.ケンタロウ先生の早期の回復を祈りたい.著者ごとにサインが用意され,次々に図書が配架されてゆく.サインもなくまとめるほど冊数のない著者の本は……上位の分類の最後の位置に戻されていた.ライフスタイル分類では同一分類内での相対位置の定義があるのかないのか.書店らしい.

郷土資料や灰色文献は別のエリアではガラスケースの中に,そして「STAFF ONLY」の扉の向こうの閉架書架にちらりと見えた.ガラスケースの中には複本が見える.「禁帯出」のラベルのあるものとないもの,2冊.以前の運用を想像する.一冊は郷土資料室に配置して禁帯出,もう一冊は通常の配架で貸出可とすることもできる.それがここでは一カ所にまとめて配架されている.わざわざ一カ所にした意図は何か.

それだけではない.たとえば「相模鉄道四十年史」.出版者は相模鉄道,おそらく非売品で寄贈で受入,だろう.OPACでの請求記号は「T/2-68//」.NDCではない請求記号から,「鉄道」ではなく郷土資料として分類,別置していた可能性が読み取れる.所蔵場所は「3階R内側」.おそらく,あのドームの内側,手には取れない場所にある.NDCでもライフスタイル分類でも分類はできるはず,だが.

他の手の届かない書架にあるディスプレイと化した図書……全集類や辞書辞典.確かに利用頻度は低いが,なくてはならない資料のはず.背表紙の色が揃っているから見栄えはいいが.

いくつかの仮説が浮かび上がる.

  1. 郷土資料,灰色文献など通常の流通ルートに乗らない図書は扱わない.もしくはノウハウがない.
  2. アーカイブは重視しない.もしくは行わない.

共同事業体の一つ,CCCはTSUTAYA書店なども手がけ,そのコンセプトは以下とWebサイトにはある

CCCはホログラムのように変化する時代と私たちのライフスタイルに対して、店舗、オンラインサービス、カードサービス、One to Oneサービスなど、生活のあらゆるフェイズを通じ、「自分らしさ」=「My Style」を持っている人々へ、新しい「ライフスタイルの提案」をしつづけることで、「ヒトと世の中をより楽しく幸せにする環境=カルチュア・インフラ」をつくっていきます。

なるほど,「ライフスタイルの提案」のために顧客の「「自分らしさ」=「My Style」」を知る.その手段としてのTカード.毎朝ファミリーマートでTカードを出してその日の昼食を買う図書館退屈男には,どんな「ライフスタイルの提案」をしてくれるのか.

既存の流通経路には載らない情報資源,たとえば先の「相模鉄道四十年史」はCCCの「ライフスタイルの提案」の対象としてもらえるのか.それがかなわないから,手の届かない書架に別置して可視性をあえて下げているではないか.これらの情報資源は通常の流通ルートには載らず,「その図書館にしかない資料」になりえる.「相模鉄道四十年史」のCiNii Booksでの所蔵館は16館.だがTSUTAYA書店は全国に展開し,おそらく同じ属性を持った顧客に対しては同じサービス,いや同じ「ライフスタイルの提案」としてどこでも買える図書を販売するだろう.

TSUTAYA書店ではおそらく全国どこでも同じ本が買える.いや,同じ本しか売っていないのか.

図書館の運営に同じ手法を当てはめるとして,CCCが掲げるところの「ヒトと世の中をより楽しく幸せにする環境=カルチュア・インフラ」がTカードから得られた顧客情報,つまり「誰かが消費した」データから作り上げられているとすれば,所蔵して提供する資料に郷土資料や灰色文献の入り込む余地は,ない.それらは「どこでも手に入る消費物」ではないから.ならば廃棄するか文字通り手の届かないところに棚上げするのか.Tカードと貸出履歴が結びつけられる懸念も示されているが,そもそも結びつけることができないデータでは最初から持たないし,見せもしないということか.

CCCはその他全国で図書館の指定管理者として運営を行おうとしている.海老名市立中央図書館は武雄市に続き2例目,そしてCCCの新卒採用者向けページには,こうある

資料収蔵や図書貸出の場といった従来の図書館像を超えて、図書館、書店、カフェを組み合わせました。

全国どこでも図書館,書店,カフェを組み合わせた図書館ができる.それ自体は否定しない.だが,そこで得られる情報資源は均質なものになるだろう.資料の質とその運用を全国で均質にするには,特殊な資料群を切り捨てるのもやむなしなのか.

図書館でのレファレンスでは,図書は提示しても「正解」は利用者が選択するもの,という前提がある.一方,CCCは図書館で「ライフスタイルの提案」を行う.そこに利用者の選択の余地はおそらくない.書店が複数あり,それぞれでライフスタイルなり何なり提案するのは自由だ.選ばれなければ淘汰されるだろう.選択する者が一定数いるからこそ,蔦屋書店も存在できている.

 

日本全国に次々に同じ顔と資料を持った図書館ができる.一定の価値観で選択された資料を所蔵し,貸出と閲覧と購入ができる図書館.それはおそらく図書館ではない.ただの書店だ.


予算はどこへいった

前回,

定期の処理をこなしてヒト,モノ,カネの流れを押さえればなんとかなると思う.

と書いておきながら予算の話がなかったので追記.

「図書費」として配分を受けた予算枠から外国雑誌や出張旅費,果てはプリンタのトナーといった消耗品まで自分の係のあらゆる費用(ただし光熱費は別)をまかなうことになった.国の時代は旅費と資料費と物品購入は別枠で執行していたので,慣れない.

それはどういうことなのか.

たとえば27インチのディスプレイがほしいと思っても,試験用にサーバ機がほしいと言っても,買ったらその分だけ自分で図書が買えなくなる,ということだ.東京までの出張旅費とトナー代はきっとバーターだ.気づかずに着任早々カラープリンタのトナーと感光体ユニットの契約依頼票出しちゃったぜ.昨年度のうちに補充しろよ.オーマイガー.

しかも引き継ぎメモには「予算は足りなくなる.だが心配するな.部長に頼んで追加の配分を受けろ」(意訳)と書いてある.突然のシビアコンディション.

とりあえず上司を仰ぐ.直近の上司は同じ職場の施設担当課から同じタイミングで異動になった.図書館は素人だが,人事施設予算会計を歴任した「プロの事務屋」だ.ここは頼るしかない.事情を説明すると,確約はできないが調整はする,と請け合ってくれた.

大口の入札が予想より安値だった,冷夏だったり暖冬だった,海外出張が中止になった,当初の予算配分から残額が出ることはよくある.なので半期が終わる頃には再度の予算配分の調整がある(こともある).問題は残額の有無をつかむ相場観と調整能力だ.所全体の予算と執行の流れがつかめないとその相場はつかめない.情報関係部署の経験しかない図書館退屈男にはできない芸当だ.

結局,この年度は別口で追加予算が必要な案件が続けて発生したため,外国雑誌経費の増額は果たせなかったが,上司の嗅覚とバランス感覚には万事助けられた.


ということでカネの問題はどうにかなりそうな目処が立ったが,結局何をすればいいのか.

通常のジョブローテーションなら,現職に留まるのは2~3年程度だ.その間,特に波風立てずに凌ぐかどうするか.

管理職(研究職が併任で来ている)との定例の期首面談では,

「噂は私の前任地(別の研究所)の図書館長から聞いている.情報系ではエースだそうだな」(誰だそれ)
「カネはないが,好きにやってももらってかまわない.責任は持つ」

大丈夫なのか.余計なことを吹き込まれてはいないのか.

好きにさせてもらうにはカネと権限と使えるデータが必要なわけだが,そんなことより図書館退屈男に「好きにしろ」と言ったら本当に好きにするぞ.大丈夫かこの管理職……いや,「ここではたいしたことはできない」ということの裏返しと見るのは考えすぎか(考えすぎ).

では,なにかやりましょうか.


着任したての専門図書館員が取り組むべきこと

2014年4月.着任したての専門図書館員は何をすべきか.

教科書的には

  1. 定期(日次,週次,月次)の処理を把握
  2. 引き継ぎ資料,業務マニュアルを熟読.特に執行可能な予算を把握.
  3. 過去の複写依頼データや購入図書などから利用傾向を把握
  4. 問題点を把握して改善に繋げる
  5. (良好な人間関係を構築)

といったところであろうか.定期の処理をこなしてヒト,モノ,カネの流れを押さえればなんとかなると思う.

「図書館員の専門性」や「図書館は必要か」などのキーワードが頭に浮かぶが,そんなことより目の前の仕事を片付けないと話にならない.

マニュアルを見るより早く,会計担当から「NACSIS-CATの料金相殺結果通知書が届いたので明細データを送れ」と言われたので過去のデータを見ながらそれらしいファイルを作成して送付.調達担当からは購入している新聞と雑誌の契約書類(四半期分)を出せというのでデータを入力して印刷して押印して決裁に回す.

資料の受入や装備,配架,ILLの受付と複写処理は契約職員さんが処理してくれる.常勤職員はILL依頼と書誌データ作成,契約事務のようだ.仕事を指示する立場で何も知らないというわけにも行かないので,マニュアルを借りて業務の流れを把握する.

複写

複写依頼も遠慮会釈なく来る.年600件前後.弊社系他研究所(同じシステムを使っている)で所蔵があればそちらに依頼,なければNACSIS-ILL,BL,あとReprintDeskも使っているようだ.それ以前に,自館で所蔵している雑誌や契約しているオンラインジャーナルの複写依頼が来るのはなぜなんだ.そうか,海外出張中なら致し方ないので処理……と思ったら出発前じゃん自分で複写に来いよどういうことよ.

時間を見つけて経験値の高い隣の係長(ネットワーク担当)に話を聞く.これまでも会議などで見知った先輩なのがありがたい.

ここでは研究者の海外出張は非常に頻繁で,100名ちょっとの研究者のうち1/3ぐらいは入れ替わり立ち替わり海外の共同研究先やフィールドワークに出ている.長期であれば,半年は帰国しない.このため,出発前に文献を入手してゆくことが多いとのこと.リモートアクセスぐらいできるだろうに,と問うと,出張先の回線事情はがよいところばかりではないため思うようには繋がらないらしい.
確かに,5月を過ぎたら依頼件数は大分落ち着いた.

依頼内容を見れば,だいたいの研究テーマや傾向はつかめてくる.同じように更新依頼のあるWebページを見ながら,誰がどこでどんな研究を行っているかがおぼろげながら見えてくるような気がする.まだ俯瞰まではできない.

図書

残念ながら、図書館で図書を購入する予算はほとんどない.したがって選書はない.残念.ひたすらオンラインジャーナルに資金を注いでいる.ただし,所の経費で購入した図書は全て図書館所蔵として管理する.受入後は研究室へ長期貸出扱いとなる.

書店さんは水曜日に納品に見えるのがここのルールのようだ.検品して書誌データと分類,配架記号を付与,あとは契約職員さんが装備と配架を行ってくれる.寄贈資料は随時届く.

書誌は……圧倒的にコピーカタロギング.でなければ,参照MARCどころかWorldCatにあるかないかの諸国の文献を相手にすることとなった.

分類はNDC8版 or 独自分類.10版もあるのに,8版.公共図書館と違い,古い資料でも除籍をあまり行わない都合上,過去の互換を考えると新版の導入に踏み切るのは難しいのだろうか.あるいは決意する頃には異動になってしまい振り出しに戻るのか.考えても仕方がないので8版で付与する.

国際機関,官庁,都道府県や大学の刊行物は発行機関別の独自分類を行い配架する.
配架と配置は時々書架を回って覚えるしかなさそうだ.

やはり社会科学系の研究室で購入図書が多い.すでに別の研究室で購入している図書を新規に購入する例もあるが,出張先へ持ち出すこともあるようなので致し方ないようだ.

ひと

物品購入や休暇その他の決裁ルートは覚えるしかない.先に触れたように,主たる利用者である研究者の基本的な行動パターンを早くに把握できたのはありがたかった.

来館者はほとんどない.図書館は別棟で離れているせいもあるが,人は来ない.したがってレファレンスもない.

まれに来館者があり,貸出の方法などを聞かれたついでに勇気を出して聞いてみた.

「あの,オンラインジャーナルを海外から使う方法とかのセミナーとかって,去年はありました?」
「え!?そんなことできるんですか?早く言ってください!」

どういうことなのか.

Webにはリモートアクセスの手順書は確かあったが……読まれてない……きっと読まれてない……もしや図書館の利用方法そのものが知られてない…….

まとめ

ということで,「図書館のサービスが知られていない」事実が明らかになった.自分がしたいことを見つける前に,えらく大きな課題を見つけてしまい,途方に暮れたのは2014年の6月ぐらいだったような気がする.