国立国会図書館

長尾館長、ありがとうございました

よく、大きな出来事で「歴史に残る」という表現があります。今回は「(我々が)歴史に残す」と言うべきでしょう。その意志を継ぐ、と言う意味で。

長尾真国立国会図書館長の辞任が2012年3月30日に参議院議院運営委員会で承認されました。後任は大滝則忠東京農業大学教授(元国立国会図書館副館長)とのことです(第180国会参議院公報第49号平成24年3月30日(金)による)。

国立国会図書館長と言えば、2005年3月に国立国会図書館法が改正されるまで「館長の待遇は、国務大臣と同等とする。」とされていた重職。本当に雲の上の人で、前任の黒澤館長から2005年8月に感謝状を授与された時には緊張で足が震えました。広義には国立国会図書館支部図書館の分館に勤務する図書館退屈男のボスでもあるわけですが、姿を仰ぎ見ることすらままなりませんでした。

一方。長尾館長は、「フットワークが軽く、どんな集まりにも顔を出し若者の話も聞いて頂けるなど気さくな方であった」「長尾館長以前と以後に別れるくらい国会図は変わった」とtwitterなどで語られています(togatter「#長尾館長 ご退任」,「国会図書館館長 長尾真さん辞任」)。就任当初から、情報工学への知見を生かした電子図書館への取り組みなどから、今後の国立国会図書館に変革が来る、と大きな期待がありました。

そして2008年3月。当館に長尾館長ご視察の打診がありました。
事前に頂いた情報は以下の通り。

  • 見学のほか、取り組みの報告や職員との懇親もお願いしたい。
  • 支部図書館に関しての長尾館長の関心事は、現状把握と官庁資料の確実な納本。すでに霞ヶ関で何カ所か訪れている。
  • 懇談については、実際に業務に携わっている者からの意見聴取などを希望している。
  • 館長に対し、メールの送信による直接の意見具申や、係長クラスでも館長室で意見交換が行えるなど、以前より風通しは良くなった。
  • 積極的に原課、関西館など現場を見に来られている。

ええええ、「実際に業務に携わっている者からの意見聴取」って、なんですか?

これまで、国立国会図書館から視察に来る方は少なく、見える方も課長級が多く、まして館長がお見えとは前例があるわけがありません。さらに係長等と懇親とはもう「う、噂は本当だったんだどうしよう」状態でした。

弊社のトップでさえ、当館に来たことはありません。まして、地方の出先事務所まで足を運び、その上で実務担当者の意見を直接聞くなど、弊社ではまずあり得ません。

当日は、RSSでの新着受入情報情報サービスを初めとしたOPAC関連の当館の取り組みについてご説明をいたしました(資料はこのへん)。説明後、長尾館長から「大変におもしろい取り組みで、今後も期待しています。ありがとうございました。」とお声をかけて頂き、お名刺を頂戴いたしました。もう、本当にありがたく、かつうれしかったです。

自分の仕事が自分たちのボス…いや国立国会図書館長にも評価して頂けるものであった。そう認識できるだけでも、モチベーションは恐ろしく上がります。この年は4年に一度のシステム更新の年でもありましたが、期待に応えられるシステムを作るため、今なおしんどい中を凌いでいます。 

このような姿勢で様々な現場を訪れ、いろいろな方と意見を交わされたのだと思います。その上で「国立国会図書館60周年を迎えるに当たってのビジョン(長尾ビジョン)」のほか、「長尾スキーム」と通称される大規模な出版物のデジタル化とその先の未来像を描き、かつ国立国会図書館長として着実にこれらを実現する。5年の在任中に、国立国会図書館は、いや日本の図書館の向いている方向は確実に変わったと感じます。

職を辞した理由というのは寡聞にして存じ上げません。砂利道を舗装するどころか片側3車線の高速道路を造り、後進にその道を空けて頂いた、と勝手に感じています。あとは、この道で走り出すだけなのでしょう。そう考えると、なんだか勇気を頂いたように思います。長尾館長と出会い、お話しさせて頂く機会があった者は、皆そう思っていることでしょう。

これからも様々な形で図書館と情報流通の世界に関わり、ご論考をお聞かせ頂けることでしょう。それはおそらく、この世界にとって最強の援護射撃です。

直接言葉を交わしたことは片手で収まるぐらいの関係ではありますが、心から「ありがとうございました」と申し上げたい気持ちで一杯です。


このブログを始めたのは、2005年に館長名の感謝状を頂いた時からでした。そう思い起こすと、気持ちをブログにしたためずにはいられませんでした。あと2年待っていれば長尾館長から頂けたと思うとちょっと惜しい気もします。

今年もシステム更新が巡って参りました。ディスカバリーサービスは導入できるのか(金額的な意味で)、ひっそり試験を続けてきたeXtensible Catalogは公開できるのか、APIてんこ盛りの図書館システムは移行できるのか、Mendeley Institutional Editionの説明と画面は見たけど契約できるのか、などなど仕様を煮詰めている真っ最中でございます。


国立国会図書館でAPI公開

国立国会図書館デジタルアーカイブポータル(PORTA)について、5つの検索対象が新たに追加されたほか、APIがいよいよ公開されました。

今回追加された検索先は以下の通り。

  • 京都大学学術情報リポジトリ+貴重資料画像 [京都大学附属図書館]
  • 日本ペンクラブ電子文藝館 [日本ペンクラブ]
  • 農林水産関係試験研究機関総合目録(図書) [農林水産研究情報センター]
  • 農林水産関係試験研究機関総合目録(雑誌) [農林水産研究情報センター]
  • HERMES-IR (Special Collections) [一橋大学附属図書館]
  • APIについても、SRW, OpenSearch, OpenURL, Z39.50が利用できるようになりました。詳細は

    PORTAを機械的に検索可能となるAPI(Application Program Interface)を公開しました。
    利用案内ページ>>>外部提供インタフェースについて

    にあるドキュメントをご覧下さい。

    また、Googleツールバー、FireFox用検索プラグインも同時に公開のようですが、例によって重いのか接続できません。

    ダウンロード案内ページ>>>Googleツールバー用/Firefox検索バー用 

    詳細は追って。


    「国会図書館の本、全国で閲覧可能に」を深読みしてみた

     貴重な名著をいつでもどこでも読めるように――。3000万冊を超える国会図書館の蔵書をデジタル化して全国で閲覧可能にするための法改正に政府が着手する。まずは都道府県立図書館の専用端末と接続。将来はインターネットを通じて自宅やオフィスで簡単に読めるようにする方針だ。
    国会図書館の本、全国で閲覧可能に 3000万冊をデジタル化(NIKKEI NET)

    の件。はてブでも大変な盛り上がりです。

    NIKKEI NETの記事にはありませんでしたが、1月7日付け日経新聞夕刊1面を飾ったこの記事のポイントは以下の5点。

    1. 「国会図書館の蔵書をデジタル化して全国で閲覧可能にするための法改正に政府が着手する」
    2. 「まずは都道府県立図書館の専用端末と接続」
    3. 「図書館同士の電子情報の送受信を認めていない著作権法を改正」
    4. 「大学やネット関連企業などと連携し、ネットを通じて利用者が自身のパソコンで閲覧や一部複製ができるようにする」
    5. 「国立国会図書館の(略)江戸時代以前の印刷物や政治家の日記など貴重な資料も保有している。デジタル化は1%未満で、こちらの作業促進も課題」

    以下はすべて図書館退屈男の予断によるものです。著作権法についてはお詳しい方が多いかと思いますので、間違いがあればご指摘下さい。

    1の「法改正」については、3で「著作権法を改正」とあるので、対象は著作権法(以下「法」とします。)でしょう。図書館での複製については法第三十一条(図書館等における複製)で以下の場合に認められていますが、ネット上で閲覧や送信を可能にするため、図書館の蔵書の電子化を行うには少なくとも「送信可能化権」について、別途許諾を得る必要があります。これが現状です。

    一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

    二 図書館資料の保存のため必要がある場合

    三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合

    そこで、「図書館同士の電子情報の送受信」を可能にするため、「著作権法を改正」するものと思われます。対象はおそらくこの第三十一条。

    著作者が保有する「公衆送信権」と「送信可能化権」を制限し無許諾でこれを行える例としては、法第三十五条(学校その他の教育機関における複製等)等があり、

    公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)を行うことができる。

    という書きぶりになっています。法第三十一条についても同様の文言を加えるのかなあ、と推測できます。
     ただし、法第三十五条では

    ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

    と但し書きがあり、むやみには行えません。このあたりから、2の「まずは都道府県立図書館の専用端末と接続」という表現になったのでしょうか。ちなみに、現行でも図書館等から国立国会図書館の所蔵資料を貸借した場合は国立国会図書館資料利用規則第五十条により「所定の閲覧室で利用させるもの」と定められており、この規則とも整合性が取れています。
     また、4ではわざわざ「一部」「複製」となっており、この表現は法第三十一条の

    一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

    の「著作物の一部分」に相当すると読むのかな、とも思います。

     まとめると、公衆送信権及び送信可能化権を図書館等において制限することが著作権法の改正により可能となり、所蔵資料の電子化とネット上での送信、閲覧、複製を一定の範囲内で行うことができるのではないか、と推測します。また、2と4の「大学やネット関連企業などと連携し」を併せて読めば、無尽蔵に提供範囲を広げるのではなく、法改正は大前提としてもまず現行の規則等々と整合性を取りつつ開始し、所蔵資料へのアクセスポイントは特定しつつも徐々に範囲を広げる、という落とし所が見えてきます。

     あとはその範囲ですが、著作権法施行令で図書館資料の複製が認められる図書館等を定めていることから、可能な図書館を国立国会図書館に限定することも考えられます。また、電子化を図書館で行いオンラインでの閲覧はできても、利用者による複製は現行の法第三十一条の範囲内に限る、などさまざまな制限が課せられそうです。そもそも、図書館での電子化があらゆる出版物に対し無許諾で行えるようになるのか、あるいは一定の制限が課せられるのかが気になります。5で「デジタル化は1%未満で、こちらの作業促進も課題」とあるので、現在国立国会図書館で行っている近代デジタルライブラリー相当の電子化事業は行えるように読めますが、どうなるのでしょう。

     閲覧についても、海外ベンダから提供が始まった電子図書のように、リアルの図書と同じく同時にアクセスできるのは1人だけで「貸し出し中」の場合は他の人は読めない、とかありそうです。

     そもそもの話をしてしまえば、この記事、1の通り「法改正に政府が着手」と書かれています。狭義の「政府」が行政府を指すとするならば、立法府に属する国立国会図書館が主体とは読めません。でも見出しは「国会図書館の本…」。そして「デジタル化は1%未満で、こちらの作業促進も課題」と突き放した表現。一体誰が「着手」するのでしょうか。そして予算は。

     まだまだ分からないことが多い話ですが、複写物を電子化してメールで送信できるようになるだけでも利用者の利便性は上がるので、良い方向で進んでほしいと願います。



    【1/8 23:30 追記】

    はてブコメント経由でid:tsysobaさんから

    知的財産推進計画2008、というところがポイントかと。

    とコメントを頂いたので調べましたところ、知的財産戦略本部会合(第18回)議事録(H19.12.13)によれば、角川本部員の発言として、

     そういう中で、経産省が「情報大航海プロジェクト」というものを立ち上げております。これも非常に重要なことでして、日本発の情報検索の技術を開発と普及していこうということですけれども、現実には、今、日本の書籍が79万点、それから学界の学術文献情報、また総理もご関心をお持ちの公文書館資料の国民への開放、また各省庁のホームページの利用、それから、そこには書いてありませんけれども、国会図書館には880万冊の蔵書があります。これらの情報をデジタル化して、その利用を図っていただきたいと思います。
     そのためには、今、相澤先生からもお話がありましたように、制度障害、壁となっています著作権法を改定して、サーバーを日本に置けるようにしていただきたいと思います。今、日本は、サーバーが国内に置けないという形になっておりまして、それについて、日本にもそういうサーバーを置いて、日本に検索技術会社をつくっていかなければいけないという問題意識を持っていただきたいと思います。

    との発言がありました。(赤字は図書館退屈男による。)

    発言中の「そこには書いてありませんけれども」の「そこ」とは知的財産戦略本部会合(第18回)議事次第(H19.12.13)の[資料4] (角川本部員配付資料)です。なお、「880万冊の蔵書」は図書所蔵数を指します。(これに雑誌等を加えて3000万冊。)

     このあたりが出元のようです。ご指摘ありがとうございます。

     そうか、これをネタにして所蔵資料電子化についてのH21年度の予算要求をすればいいのか!(いいのか?)


    国立国会図書館がソーシャルブックマークを始めると誰が予想しえたのか。

    一気に10光年ぐらい引き離された感じがした。ただ唯一の国立図書館の力を見せつけられた。

    「10月中旬より提供予定」と告知されていた国立国会図書館デジタルアーカイブポータル PORTAが公開されたとカレントアウェアネス-Rで告知されていた。

    とりあえずユーザ登録。このページを読んだらすぐ登録すべきだ。

    検索そのものは以前のプロトタイプとそれほど変わらない(ように見える)。エンジンはGETA。ただし使いやすさは格段にアップしている。

    ここで強調すべきなのはこのサイトの「ポータル」度の強さだ。ユーザ登録してパーソナライズ可能な実装を列挙してみる。詳しくはヘルプを

    1. ユーザ種別に応じた検索対象等の設定

      一般、図書館員、自然科学系、人文科学系、子どもの5種類から所属ユーザグループを選択できます。各グループに応じた検索の設定(検索対象、分類等)が初期値として予め設定されています。初回ログイン時にはユーザグループの設定がデフォルトで反映された状態となります。(ヘルプより)

    2. RSSフィードの登録
      ログイン画面に好きなRSSフィードを登録できる。しかも複数。
    3. ブックマーク
      検索結果をブックマークとして登録できる。しかもタグ+コメントも付与できる。そして公開可能。超ソーシャル。スイーツ。☆とかつけられると最高。
    4. レコメンド
      検索結果の「おすすめ」をクリックすると…
      「この資料を閲覧したユーザーは他に以下の資料を閲覧しています。」
      これが蓄積されていった暁には…。

    国立国会図書館がソーシャルブックマークを始めると誰が予想しえたのか。斜め上を行った展開。

    画面を構成する部品であるポートレットはiGoogleばりに自由に移動可能。
    APIなんて当然のように実装済み。他のデータプロパイダとの横断検索のほか、PORTAそのものがデータプロバイダとして機能する。

     PORTA自身がデータプロバイダとなり、外部システム等がPORTAの検索機能をシステム的に活用可能となるよう、API(Application Programming Interface)を提供します。APIの種類としてOAI-PMH、SRW、 OpenSearch、OpenURL等を想定しています。現在提供準備中です。
    (「連携を希望される機関の方へ」より)

    来る図書館総合展とかでも詳しい話が聞けるのだろうなあ。きっと。

    い、いや、悔しいとか、己(と自機関の)の無力さを嘆いているとか、そういうわけじゃないんだから!素直に「すっげえ」と褒めているだけなんだからぁ!

    …「連携希望」と書いてメールでも出そう。俺たちは負けない。(←誰に?)


    分館という名の下に

    弊社は分館だ。社名のほかにその名の看板も掲げている。他館より予算とか規模とかサービス内容で大きく差があっても、分館は分館。それなりの立場というものがある。
    日々、中央館の暖かきご指導ご鞭撻の元、法的な面も含めさまざまな便宜を受けている。一方、苦い思い出もある。大人の付き合いとはそんなものだ。

    いま、そんな中央館の周囲が揺れている。いわゆる法人化という波だ。
    国の機関の法人化が、本当に国益になるのか。正直、それはわからない。機関の性格や業務内容にもよるだろうし。
    ただ、本当に国としてしなければならない事業とは何か。それを検討し実行に移さないことには、危機的な状況からは抜けられない。だが、その決定が単純な数値による評価や政治的な意図からなされたり、いわゆる声の弱いところから切れられたり、ということはあってはならないと感じる。
    分館としては、中央館が独法化されれば影響は少なくない。サービスにも影響が出る。

    こちらは情勢を見守っているしかなかったのだが、先日中央館からこの件に対する記者発表資料が公開された。中央館Webサイトのトップページからリンクされているので興味ある方はご覧頂きたい。

    A42枚という短いものだか、「圧力」に簡単に屈せず、凛として自らのあるべき姿を示す中央館の姿勢が感じられた。日本の図書館が依るべき存在であると感じさせられる。

    分館であるが故、対等な立場にはなりえないシーンもあるが、協調し応援してゆきたいと思う。