図書館

海老名市立中央図書館に行ってきました

日々記―へっぽこライブラリアンの日常―の中の人と海老名市立中央図書館に行ってきました.館内のようすとかも前後編豪華イラスト入りで紹介されておりますので,併せてご参照ください.

CCC及び図書館流通センター(TRC)の共同事業体による指定管理者での運用で2015年10月にリニューアル,すでにメディア等でその分類や選書について議論がある図書館である.

建物のロゴからWebサイトに至るまで統一されたフォント.静かな空間とさりげないBGM.暖色系で統一された照明.そんな空間で飲み物を頂きながら居心地のよい椅子に座って勉学に励み読書をする.公共施設によくある創英角ポップ体で書かれた統一性のない注意書きなど張り物はない.年中無休.

それで一体何が悪いのか.夕方の館内に空席は少ない.スターバックスからか,「こんばんは」の声が静かに響く.

確かに採用されているライフスタイル分類はNDCに浸かった頭では一見,わかりにくい.明らかな分類の誤りも散見される.だが背ラベルとは別に背表紙に詳細な分類が記されているので配架はおそらく困らない.サインもしっかり書架にはなされている.あとは慣れの問題だけなのか.

館内の一カ所に腰掛ける.円形の2階ホール.見上げる書架の手が届かない上層には「神奈川県史」などの郷土資料.下層には料理・食材の図書が並ぶ.そこで返却本の再配架のようすを眺めていた.

同じ職員2名程度が資料を小脇に抱えて繰り返し配架に訪れる.量があるならブックトラックで資料を運び込んでまとめて返却したいところだが,そうではない.見るとほかの職員も両手で10~20冊の資料を抱えて階段を上がって別のフロアへ移動している.書架間隔は芯々距離でおおむね180cmはある.少なくともこのホールではスペースの問題は無用に見える.「雰囲気」優先で大きなブックトラックの運用を避けて手で配架を行っているのか,ため込まずにスピード優先で配架なのか.

料理本のコーナーなので著名な料理研究家が並ぶ.ケンタロウ先生の早期の回復を祈りたい.著者ごとにサインが用意され,次々に図書が配架されてゆく.サインもなくまとめるほど冊数のない著者の本は……上位の分類の最後の位置に戻されていた.ライフスタイル分類では同一分類内での相対位置の定義があるのかないのか.書店らしい.

郷土資料や灰色文献は別のエリアではガラスケースの中に,そして「STAFF ONLY」の扉の向こうの閉架書架にちらりと見えた.ガラスケースの中には複本が見える.「禁帯出」のラベルのあるものとないもの,2冊.以前の運用を想像する.一冊は郷土資料室に配置して禁帯出,もう一冊は通常の配架で貸出可とすることもできる.それがここでは一カ所にまとめて配架されている.わざわざ一カ所にした意図は何か.

それだけではない.たとえば「相模鉄道四十年史」.出版者は相模鉄道,おそらく非売品で寄贈で受入,だろう.OPACでの請求記号は「T/2-68//」.NDCではない請求記号から,「鉄道」ではなく郷土資料として分類,別置していた可能性が読み取れる.所蔵場所は「3階R内側」.おそらく,あのドームの内側,手には取れない場所にある.NDCでもライフスタイル分類でも分類はできるはず,だが.

他の手の届かない書架にあるディスプレイと化した図書……全集類や辞書辞典.確かに利用頻度は低いが,なくてはならない資料のはず.背表紙の色が揃っているから見栄えはいいが.

いくつかの仮説が浮かび上がる.

  1. 郷土資料,灰色文献など通常の流通ルートに乗らない図書は扱わない.もしくはノウハウがない.
  2. アーカイブは重視しない.もしくは行わない.

共同事業体の一つ,CCCはTSUTAYA書店なども手がけ,そのコンセプトは以下とWebサイトにはある

CCCはホログラムのように変化する時代と私たちのライフスタイルに対して、店舗、オンラインサービス、カードサービス、One to Oneサービスなど、生活のあらゆるフェイズを通じ、「自分らしさ」=「My Style」を持っている人々へ、新しい「ライフスタイルの提案」をしつづけることで、「ヒトと世の中をより楽しく幸せにする環境=カルチュア・インフラ」をつくっていきます。

なるほど,「ライフスタイルの提案」のために顧客の「「自分らしさ」=「My Style」」を知る.その手段としてのTカード.毎朝ファミリーマートでTカードを出してその日の昼食を買う図書館退屈男には,どんな「ライフスタイルの提案」をしてくれるのか.

既存の流通経路には載らない情報資源,たとえば先の「相模鉄道四十年史」はCCCの「ライフスタイルの提案」の対象としてもらえるのか.それがかなわないから,手の届かない書架に別置して可視性をあえて下げているではないか.これらの情報資源は通常の流通ルートには載らず,「その図書館にしかない資料」になりえる.「相模鉄道四十年史」のCiNii Booksでの所蔵館は16館.だがTSUTAYA書店は全国に展開し,おそらく同じ属性を持った顧客に対しては同じサービス,いや同じ「ライフスタイルの提案」としてどこでも買える図書を販売するだろう.

TSUTAYA書店ではおそらく全国どこでも同じ本が買える.いや,同じ本しか売っていないのか.

図書館の運営に同じ手法を当てはめるとして,CCCが掲げるところの「ヒトと世の中をより楽しく幸せにする環境=カルチュア・インフラ」がTカードから得られた顧客情報,つまり「誰かが消費した」データから作り上げられているとすれば,所蔵して提供する資料に郷土資料や灰色文献の入り込む余地は,ない.それらは「どこでも手に入る消費物」ではないから.ならば廃棄するか文字通り手の届かないところに棚上げするのか.Tカードと貸出履歴が結びつけられる懸念も示されているが,そもそも結びつけることができないデータでは最初から持たないし,見せもしないということか.

CCCはその他全国で図書館の指定管理者として運営を行おうとしている.海老名市立中央図書館は武雄市に続き2例目,そしてCCCの新卒採用者向けページには,こうある

資料収蔵や図書貸出の場といった従来の図書館像を超えて、図書館、書店、カフェを組み合わせました。

全国どこでも図書館,書店,カフェを組み合わせた図書館ができる.それ自体は否定しない.だが,そこで得られる情報資源は均質なものになるだろう.資料の質とその運用を全国で均質にするには,特殊な資料群を切り捨てるのもやむなしなのか.

図書館でのレファレンスでは,図書は提示しても「正解」は利用者が選択するもの,という前提がある.一方,CCCは図書館で「ライフスタイルの提案」を行う.そこに利用者の選択の余地はおそらくない.書店が複数あり,それぞれでライフスタイルなり何なり提案するのは自由だ.選ばれなければ淘汰されるだろう.選択する者が一定数いるからこそ,蔦屋書店も存在できている.

 

日本全国に次々に同じ顔と資料を持った図書館ができる.一定の価値観で選択された資料を所蔵し,貸出と閲覧と購入ができる図書館.それはおそらく図書館ではない.ただの書店だ.


予算はどこへいった

前回,

定期の処理をこなしてヒト,モノ,カネの流れを押さえればなんとかなると思う.

と書いておきながら予算の話がなかったので追記.

「図書費」として配分を受けた予算枠から外国雑誌や出張旅費,果てはプリンタのトナーといった消耗品まで自分の係のあらゆる費用(ただし光熱費は別)をまかなうことになった.国の時代は旅費と資料費と物品購入は別枠で執行していたので,慣れない.

それはどういうことなのか.

たとえば27インチのディスプレイがほしいと思っても,試験用にサーバ機がほしいと言っても,買ったらその分だけ自分で図書が買えなくなる,ということだ.東京までの出張旅費とトナー代はきっとバーターだ.気づかずに着任早々カラープリンタのトナーと感光体ユニットの契約依頼票出しちゃったぜ.昨年度のうちに補充しろよ.オーマイガー.

しかも引き継ぎメモには「予算は足りなくなる.だが心配するな.部長に頼んで追加の配分を受けろ」(意訳)と書いてある.突然のシビアコンディション.

とりあえず上司を仰ぐ.直近の上司は同じ職場の施設担当課から同じタイミングで異動になった.図書館は素人だが,人事施設予算会計を歴任した「プロの事務屋」だ.ここは頼るしかない.事情を説明すると,確約はできないが調整はする,と請け合ってくれた.

大口の入札が予想より安値だった,冷夏だったり暖冬だった,海外出張が中止になった,当初の予算配分から残額が出ることはよくある.なので半期が終わる頃には再度の予算配分の調整がある(こともある).問題は残額の有無をつかむ相場観と調整能力だ.所全体の予算と執行の流れがつかめないとその相場はつかめない.情報関係部署の経験しかない図書館退屈男にはできない芸当だ.

結局,この年度は別口で追加予算が必要な案件が続けて発生したため,外国雑誌経費の増額は果たせなかったが,上司の嗅覚とバランス感覚には万事助けられた.


ということでカネの問題はどうにかなりそうな目処が立ったが,結局何をすればいいのか.

通常のジョブローテーションなら,現職に留まるのは2~3年程度だ.その間,特に波風立てずに凌ぐかどうするか.

管理職(研究職が併任で来ている)との定例の期首面談では,

「噂は私の前任地(別の研究所)の図書館長から聞いている.情報系ではエースだそうだな」(誰だそれ)
「カネはないが,好きにやってももらってかまわない.責任は持つ」

大丈夫なのか.余計なことを吹き込まれてはいないのか.

好きにさせてもらうにはカネと権限と使えるデータが必要なわけだが,そんなことより図書館退屈男に「好きにしろ」と言ったら本当に好きにするぞ.大丈夫かこの管理職……いや,「ここではたいしたことはできない」ということの裏返しと見るのは考えすぎか(考えすぎ).

では,なにかやりましょうか.


着任したての専門図書館員が取り組むべきこと

2014年4月.着任したての専門図書館員は何をすべきか.

教科書的には

  1. 定期(日次,週次,月次)の処理を把握
  2. 引き継ぎ資料,業務マニュアルを熟読.特に執行可能な予算を把握.
  3. 過去の複写依頼データや購入図書などから利用傾向を把握
  4. 問題点を把握して改善に繋げる
  5. (良好な人間関係を構築)

といったところであろうか.定期の処理をこなしてヒト,モノ,カネの流れを押さえればなんとかなると思う.

「図書館員の専門性」や「図書館は必要か」などのキーワードが頭に浮かぶが,そんなことより目の前の仕事を片付けないと話にならない.

マニュアルを見るより早く,会計担当から「NACSIS-CATの料金相殺結果通知書が届いたので明細データを送れ」と言われたので過去のデータを見ながらそれらしいファイルを作成して送付.調達担当からは購入している新聞と雑誌の契約書類(四半期分)を出せというのでデータを入力して印刷して押印して決裁に回す.

資料の受入や装備,配架,ILLの受付と複写処理は契約職員さんが処理してくれる.常勤職員はILL依頼と書誌データ作成,契約事務のようだ.仕事を指示する立場で何も知らないというわけにも行かないので,マニュアルを借りて業務の流れを把握する.

複写

複写依頼も遠慮会釈なく来る.年600件前後.弊社系他研究所(同じシステムを使っている)で所蔵があればそちらに依頼,なければNACSIS-ILL,BL,あとReprintDeskも使っているようだ.それ以前に,自館で所蔵している雑誌や契約しているオンラインジャーナルの複写依頼が来るのはなぜなんだ.そうか,海外出張中なら致し方ないので処理……と思ったら出発前じゃん自分で複写に来いよどういうことよ.

時間を見つけて経験値の高い隣の係長(ネットワーク担当)に話を聞く.これまでも会議などで見知った先輩なのがありがたい.

ここでは研究者の海外出張は非常に頻繁で,100名ちょっとの研究者のうち1/3ぐらいは入れ替わり立ち替わり海外の共同研究先やフィールドワークに出ている.長期であれば,半年は帰国しない.このため,出発前に文献を入手してゆくことが多いとのこと.リモートアクセスぐらいできるだろうに,と問うと,出張先の回線事情はがよいところばかりではないため思うようには繋がらないらしい.
確かに,5月を過ぎたら依頼件数は大分落ち着いた.

依頼内容を見れば,だいたいの研究テーマや傾向はつかめてくる.同じように更新依頼のあるWebページを見ながら,誰がどこでどんな研究を行っているかがおぼろげながら見えてくるような気がする.まだ俯瞰まではできない.

図書

残念ながら、図書館で図書を購入する予算はほとんどない.したがって選書はない.残念.ひたすらオンラインジャーナルに資金を注いでいる.ただし,所の経費で購入した図書は全て図書館所蔵として管理する.受入後は研究室へ長期貸出扱いとなる.

書店さんは水曜日に納品に見えるのがここのルールのようだ.検品して書誌データと分類,配架記号を付与,あとは契約職員さんが装備と配架を行ってくれる.寄贈資料は随時届く.

書誌は……圧倒的にコピーカタロギング.でなければ,参照MARCどころかWorldCatにあるかないかの諸国の文献を相手にすることとなった.

分類はNDC8版 or 独自分類.10版もあるのに,8版.公共図書館と違い,古い資料でも除籍をあまり行わない都合上,過去の互換を考えると新版の導入に踏み切るのは難しいのだろうか.あるいは決意する頃には異動になってしまい振り出しに戻るのか.考えても仕方がないので8版で付与する.

国際機関,官庁,都道府県や大学の刊行物は発行機関別の独自分類を行い配架する.
配架と配置は時々書架を回って覚えるしかなさそうだ.

やはり社会科学系の研究室で購入図書が多い.すでに別の研究室で購入している図書を新規に購入する例もあるが,出張先へ持ち出すこともあるようなので致し方ないようだ.

ひと

物品購入や休暇その他の決裁ルートは覚えるしかない.先に触れたように,主たる利用者である研究者の基本的な行動パターンを早くに把握できたのはありがたかった.

来館者はほとんどない.図書館は別棟で離れているせいもあるが,人は来ない.したがってレファレンスもない.

まれに来館者があり,貸出の方法などを聞かれたついでに勇気を出して聞いてみた.

「あの,オンラインジャーナルを海外から使う方法とかのセミナーとかって,去年はありました?」
「え!?そんなことできるんですか?早く言ってください!」

どういうことなのか.

Webにはリモートアクセスの手順書は確かあったが……読まれてない……きっと読まれてない……もしや図書館の利用方法そのものが知られてない…….

まとめ

ということで,「図書館のサービスが知られていない」事実が明らかになった.自分がしたいことを見つける前に,えらく大きな課題を見つけてしまい,途方に暮れたのは2014年の6月ぐらいだったような気がする.

 


図書館退屈男の近年の情勢について

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図書館システムの調達と構築に疲れ果てた図書館退屈男の異動先は,小さな研究所図書室だった.

 2014年4月,20余年を過ごしたセンター館から国立研究開発法人に採用.弊社系研究機関職員にはありがちなジョブローテーションの一環で「出向」に近いが,いつ戻るとかどこに戻るとかの予定も計画も何もなく.

 組織規程によるところの図書館担当科(課じゃないんです)の業務は以下3つ.

(1) 所内ネットワークの運用・管理に関すること。
(2) 公式ホームページのセキュリティ及び運用管理に関すること。
(3) 前各号に掲げるもののほか、図書、情報及びネットワークに関すること。

 図書館退屈男の係はこのうち(2)と(3)の「図書」が担当.図書館業務は「前各号に掲げるもののほか,図書」,とまあ随分と軽く見られている.設置法には「農林水産業に関する内外の資料の収集、整理及び提供」とあるが,そいつは図書館の仕事ではないのかもしれない.

 前前任者とその前の担当者は諸事情により中途退職,このため専任担当者不在の期間が長かったからこんな扱いなのかどうなのか.前任者は相当な苦労があったことは想像に難しくはない.

 公式ホームページの更新は着任翌日から来る.CMSは未導入,Adobe DreamWeaverで手書きしてアップロードして更新.サイトの構成が全くわからないので途方に暮れつつ,作業する.

 引き継ぎのメモには「Namazuの更新処理が重いので要対処」とある.Namazu……あの一世を風靡した全文検索システムがここではまだ使われていた.図書館退屈男も昔はお世話になった.

 何を隠そう,弊社系研究機関のサーバにCERN httpd(当時)を仕込みHTMLの書き方をトレーニングし「ホームページで情報発信」の下地を作ったのは図書館退屈男とその上司である.たぶん20年ぐらい前の話になる.サイト内検索にNamazuを仕込んだのも図書館退屈男である.弊社系のWebサーバで運用しているのはもうここだけだろう.最期を看取ることもまた責任か.チェックしたところインデックスファイルが肥大化していたので,gcnmzを走らせてガベージコレクション.インデックスのサイズがきわめて小さくなり,cronで更新処理を実行しても負荷は減少したのでよいことにする.これは後でGoogleカスタム検索に置き換えた.

 引き継ぎメモの別紙には,各種の申し込みフォーム用のCGIのソースとおぼしき文字列があった.

#!/usr/local/bin/perl
#
# hogehoge CGI
# 

require "jcode.pl";

 ファイルの最終更新日は2004年だった.ソースを追うと,セキュリティ的にダメな予感しかしない.すぐに汎用のメール送信サービスの利用の切り替えを上申することにした.なお,当該プログラムはWebアプリケーション脆弱検査の結果「要改修」との判定が後日下る.WAFがあってよかった.

 そんなこんなで「公式ホームページのセキュリティ及び運用管理」については,給料分の仕事量はありそうである.

 問題は図書館業務である.例によって予算は少ない.契約職員の賃金と外国雑誌(冊子体は全廃されていた)契約でサイフは空になる.

 この研究所で何ができるのか.まずはユーザーニーズ,いやユーザーそのものをつかむことから始めることにしよう.


 すごーく,更新間隔が開いてしまいましたが,落ち着いたので1年前の記憶をさかのぼってblogを再開してみました.

 職場も変わったので,ここから第四シーズン,ということで.なお,まだ大学院は出られていません…….

 


Mendeleyが来た日。

  Mendeley。いわゆる文献管理ツール。去年の今頃はそう思っていた。ところが。それはとんでもなく違う認識だったとしたら。

  話は今年、2011年2月に遡る。Bloomington, IN で開催されたCode4lib ConferenceでのIan Mulvanyさんの発表、"Mendeley's API and University Libraries: Three Examples to Create Value"で語られたのは、「MendeleyからOAuthで認証してリポジトリにアクセス」「MendeleyのMy Libraryから自分の文献をSWORDでリポジトリに投入」というAPIをバリバリ使った実装例の紹介と、APIコンテスト - "Binary Battle"。賞金は $10001
「なにこれすごい」と気づき、実はひっそりと動向をチェイス。情報源はMyOpenArchiveでおなじみ、@keitabandoさんのブログなわけですが。いつもありがとうございます。@keitabandoさんはMendeleyのAdvisor(日本には7名)でもあります。すてき。

  そして来る Dr. Victor Henning, Co-Founder & CEO, Mendeley Ltd. 来日の報。折しもWIRED日本版にMendeleyの記事「知のシェア – 学術論文における理論と実践」の掲載。なんというタイミングの良さ。第2回 SPARC Japan セミナー2011「今時の文献管理ツール」ワークショップでの講演のほか、別途に懇談の機会をいただきました。この場をお借りして、機会をいただきました関係各位、特に@keitabandoさんに心からお礼申し上げます。 

ワークショップの模様はtogetterにまとめておきましたので、こちらをご覧ください

 (超イケメンの)Dr. Victor Henning との2日間に渡る会談で明らかになった事項はこんな感じ。

これまでと現状:

  • 2008年に3人の学生のアイディアとSkypeアカウントからMendeleyは始まった。今では195カ国3万の大学・研究機関で、140万人(うち有償アカウント数千)が1億4千万近い文献をアップロードするまでになった。論文の重複はできるだけ除去している(たまに同定に失敗して重複している場合もあるそうです)。
  • Fundingと有償ユーザからの収益はあるが、まだ黒字にはなっていない。
  • 競合他社との最大のアドバンテージは「無償」であること。
  • 実は専任のサポート担当は1名。ただし、staff全員が定期的にサポート業務を行っている。CEOも例外ではない。ユーザの気持ちを掴むことが重要。我々はcrowdサービス。サポートもまたcrowd。advisorと一体になってサポートを行っている。
  • 大事なのでは機能ではなく、使っていて楽しいかどうか。Mendeleyは若いResearcherにとって使って楽しいツールとなっている。情報共有を簡単にするのが目的。
  • TogoDocのように、学際的論文を見つける必要性は高くなっている。どのような分野の研究者が使っているかがポイントになる。自分ならまず心理学を検索し、文献を登録する。時間とともに、生物学の人もその論文を見ることもあるだろう。その時は、学際的領域として心理学が求められている、ということになる。容易に探し出せるよう、厳密なカテゴリ分けはあえてしない。

近日リリースの機能など:

  • QuickSend。Mendeley Desktopから文献をDrag and Dropでメール送信。
  • Mendeley Suggest。ユーザが文献につけたタグ、Annotationなどを利用して、ドキュメント同士のsemanticなリンク生成とレコメンドを行う。amazonライクな手法に加え、MeSHも使用。
  • 図書館向けプログラム。Swetsと提携し、2012年1月に発表する。図書館向けの機能として、自機関のユーザの文献の利用動向などを把握できるツールなどを用意する。

今後の展開:

  • これまで蓄積した情報をもとに、iTunesのように論文をMendeley経由で購入するビジネスモデルを検討している。出版社からのメタデータや本文提供のオファーもあり、交渉を進めている。PubMedからは全文アーカイブの許諾は出ている。
  • 論文提供では PaperC DeepDyve と(Google Trendで)比較しても Mendeley の伸びは明らか。レコメンド用に、オープンソースのOCRを導入した。これでPDFの全文解析も行う予定。
  • 名寄せの問題。Mendeleyでも解決はしていないが、ResearcherIDORCIDとの連携により対応したい。

ということで、図書館向けプログラムの存在、また「論文をMendeley経由で購入」という新たな学術情報入手のアプローチが明らかになりました。確かに、文献の書誌情報をSNS上で共有したとしても、「入手ができない」というのはストレスになるはず。そこに出版社も目を向け、協同を働きかけているという事実。同じように、Springerが買収したCiteULikeはDeepDyveと連携しています。

90の座席がほぼ満席のワークショップでは、MendeleyのほかEndNote、RefWorksといった既存の製品のほか、生命科学者のための文献管理トータルソリューションツールのフリーソフトウェア、TogoDocの紹介もありました。こちらはPubMedと連携し生命科学分野に特化しており、登録済みの論文の「全文から」PubMedを検索し文献をレコメンドする機能付き。協調フィルタリングではなく、論文の中身から推薦する文献を検索とのこと。用語の違いはMeSHを使って吸収、正規化。これには Dr. Victor Henning も大いに興味を示したようで、ワークショップの席上でMendeleyのAPIを使ってのレコメンドの強化など、製作者の岩崎さん(東京大学)とのコラボレーションの提案がありました。「開発担当とコンタクトできるよう準備する」など、動きの早さがさすがです。

対するEndNoteとRefWorks。EndNote(文献管理)はWeb of Science(検索と関連文献表示)とResearcherID(成果公開と研究者間での共有)の役割分担と必要に応じたカスタムメイドな文献リストの作成サービス、きめ細かいユーザサポートをアピール。
RefWorksはAPIによるCMS(Moodleの対応実績あり)をインターフェースとした時間サービスとの統合やDspaceなど機関リポジトリとの連携、また大学などではアカウントを失わないよう卒業生プログラムを提供する、などのサービスがあるとのこと。
それぞれが求めるサービスから来る機能や性格の違いが把握できるワークショップとなりました。

そして今日の懇談というか会談。Researchmapでの名寄せ問題のほか、CiNiiとの連携はどうすれば。
以下、自分のデータベースとMendeleyとの連携方法。

  • RIS、BibTex、EndNote XML、Zotero SQLファイルからのインポート。
  • COinS(ContextObjects in Spans, OpenURL(Z39.88-2004)をspanタグを使ってHTML中に記述する手法)で書誌情報を書くとBookmarkletを利用したWeb Importerでインポートできる(CiNii対応済み)。
  • 上によらないボタンクリックでのデータ転送はAPIを使うか応相談。

そうか、COinSに対応しているなら、弊社のシステムはこんなこともあろうかとあちこちで実装済みだから…おお、インポートできた!すごいぞ図書館退屈男。でもWebページ扱いでインポートしている…だめだこれ、不具合報告を送らないと…ああ、仕事が増えた…。

Mendeley。文献管理ツールからこれまでにない論文入手とコラボレーションツールへの進化の到来と、Web2.0でうたわれた「リッチなユーザ体験」を本当の意味で体現して築いた新たな世界。彼らは本当に学術情報の世界に革命を起こせるのか。「図書館向けパッケージ」の実力如何。やはりエッジの利いたサービスは「※但しイケメンに限る」しか作り得ないのか(それ関係ない)。

会談しながら検索して気づきました。Code4Lib Conferenceで発表したIanさん、もとはNatureでConnnoteaを開発していたのですね(スライドあり)。WIRED日本版によればヘッドハントされたそうです。過去に図書館退屈男もインストールに取り組みその秘密も明らかになりましたが、最近OSS版の開発が止まっていたのはそういうことだったのかと今更気づく始末で。


うわ、半年ぶりにblogを書きました。図書館総合展でも催促をいただいたのに。Twitterにかまけてないでもうちょっと記事を書くようにしないといけません。

とはいえ、今回の一連の懇談でかなりの刺激を受けました。こんなことができるなんて、という驚きと、自分の今後の仕事について。


山が動いた(2) - 日本図書館協会はZ旗を掲げた

各図書館において、被災地からの要請に積極的に応えることが期待される。
(日本図書館協会, "被災者を支援する図書館活動についての協力依頼" http://www.jla.or.jp/earthquake/20110325.html, accessed 2011/03/26)

日本図書館協会が全国の図書館に対し、Z旗を掲げました。

日本図書館協会からの要請「被災者を支援する図書館活動についての協力依頼」の続報です。思ったより状況は速いスピードで動いており、3/26付け朝日夕刊9面に以下のように掲載がありました。Webでは http://www.asahi.com/national/update/0326/TKY201103260268.html (accessed 2011/03/26)に掲載がありました。

図書館の本を被災地に送信:ファックスやメールで
(以下概要)
・被災者からの求めに応じ公共図書館が蔵書の一部をFAXやメールで送信
・JLAの要請に応じ、権利者団体が合意
・日本書籍出版協会、日本文芸家協会が了承
・東京都立、山梨県立が(依頼を)受付(メールアドレス掲載あり)
・JLAは他の公共図書館にも送信体制を整えるよう要請

日本図書館協会、日本書籍出版協会、日本文芸家協会並びに出版社など関係各位のご英断に感謝申し上げると共に、Twitterにて最新の情勢をご教示頂き、また #jishinlib での意見を関係者にお伝え頂いた南様豊田様ほか各位にお礼申し上げます。

なお、南様は、以下のようにも仰っております。

図書館界の意見を集約して各方面に伝達・要望するJLAの役割にもう少し慮ってくれてもいいような気がするんですけど。あと、求めるだけじゃなくて自らも動くってこと。私は少なくともそう心がけています。
http://twitter.com/#!/cityheim/status/51020179710287872
(Twitter, 2011/03/25 05:31AM, accessed 2011/03/26)

我々も「自らも動く」を心がけないと、改めて心した次第です。

図書館退屈男、認定司書の件などでは遺恨あるところですが、この状況に至っては日本図書館協会の動きを支持すると共に、一会員として協力は惜しまぬ所存です。先の「各図書館」は専門図書館等も含む全館種と信じて。


山が動いた - 被災者を支援する図書館活動についての協力依頼

(追記)以下は出版社ほか権利をお持ちの方々へのお願いです。 多くの被災地の図書館では、被災者や復旧救援救護に必要な文献や図書が利用できません。被災地向けだけでも、図書館に公衆送信権及び送信可能化権を頂き、事後の電子媒体の廃棄を条件に図書館間の複写をPDFで、メール送信を認めて頂けないでしょうか。

と無理を承知で前回のこのblogで訴えてみたり、Twitterでつぶやいたり、MLで各方面に投げてから約10日。

「まあ、図書館退屈男は言うだけで交渉能力ないし」と思っていたら、思わぬところから動きがありました。3月24日(木)に文化庁で開催された「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」(第6回)にて、常世田委員より「日本図書館協会から被災地への公衆送信に関しての要望」として会議終了後にこの件についての説明と議論がありました。また、糸賀委員からも補足のコメントなどがありました。詳細は文化庁「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」(第6回2011/03/24)実況ツイートをご参照ください。すでに日本図書館協会では18日の評議員会でこの件は決定していたようです。

この場での議論で、著作権者側委員などから賛同の発言があったことなどから、法改正ではなく「図書館と権利者で調整」ではどうか、という方向性が見えました。

そして本日、3月25日付塩見理事長名で日本図書館協会より権利者団体に対し「被災者を支援する図書館活動についての協力依頼―被災地域への公衆送信権の時限的制限について―」として依頼文書が出されました。

日本図書館協会から依頼した許諾の内容と条件をまとめると、以下の通りです。

  1. 被災者や被災地の図書館や病院等の公共施設等、また救援活動を行っている団体や個人などへのメールやFAXなどによる複写物の送信
  2. 被災地の乳幼児への絵本の読み聞かせや、高齢者向けのお話し会の実施や、これらの中継、これらの様子を録音録画したものの配信、絵本の版面の公衆送信
  3. 上記2点は震災による被災のため資料、情報の入手の困難な期間および地域に限定し、被災地の復興がある程度なされた段階で複製物等は廃棄する

いや、#jishinlib で議論されていた内容がこのように日本図書館協会からの依頼となるとは、思っても見ませんでした。別にここで書いたから、ということはまずないと思いますが、喜ばしいことです。

上記の依頼文書のページには「各図書館において、被災地からの要請に積極的に応えることが期待される。」とありました。我々はこれに応えるべく、活動する時が来たのでしょうか。

この場にて再度お願い申し上げます。権利者各位のご協力をいただけましたら幸いです。


さて、地震発生前に寄稿させて頂きました原稿が、2本とも無事出版されました。よろしければご高覧ください。

また、第5回 Code4Lib JAPAN Workshop「めざせ!図書館発、USTREAM中継!~基礎から、集客ノウハウまで~」(コンテンツ作成コース)(リンクはtogetterによるTweetのまとめ)にて講師を務めさせて頂きました。ちょうど先の依頼文書の2に利活用できそうな内容でした。また、開催が関西と言うこともあり、しばらくぶりに余震の心配のない夜を過ごすことができました。お招き頂きました大学図書館問題研究会の関係各位にお礼申し上げます。


地震に遭いました。被災館からのILL等の支援をお願いします。

地震に遭いました。

当館の被害は
http://www.flickr.com/photos/tzhaya/sets/72157626122349337/
の通りです。

来週から業務ができるかどうか、ILL/レファレンス担当とも相談する必要があるのですが、できることはしたいと考えています。
OPACは今のところ稼働、サービスを続けています。ただし、研究所間のネットワークは一部不通となっています。

阪神・淡路大震災の時はまだTwttierもなく、今のようにライフラインの情報が集約できることはありがたいことです。

いずれにしても、当面は資料の複写や相互貸借サービスを提供できそうにありません。つくばですらこの有様ですから、東北地区に至っては業務どころではないと思われます。

そして図書館退屈男からのお願いです。NACSIS-CAT参加館始め、ILLなどにご協力をいただける図書館様に置かれましては、被災館からの依頼の受入をお願いできないでしょうか。情報をまとめて提供することもそうですが、今、遠隔地の図書館でできることは、被災館が利用できない情報を提供して頂けることです。私たちもできるだけ早くサービス再開に努めます。

(追記)以下は出版社ほか権利をお持ちの方々へのお願いです。
多くの被災地の図書館では、被災者や復旧救援救護に必要な文献や図書が利用できません。被災地向けだけでも、図書館に公衆送信権及び送信可能化権を頂き、事後の電子媒体の廃棄を条件に図書館間の複写をPDFで、メール送信を認めて頂けないでしょうか。
お許しいただければ、twitterでハッシュタグ #jishinlib をつけてご連絡頂くか、コメントなどでお知らせください。全国の図書館へ連絡します。

図書館退屈男、伏して心よりお願い申し上げます。

そして、一日でも早く笑顔で利用者にサービスができるように。


書誌レコードにゴーストは宿るのか

 システム更新に伴う図書館システムのデータ同期作業がほぼ終わった(はず)。同一ベンダの同一DBMSなので、データを右から左に移すだけの作業ではあるが、同期が取れないと貸出中の資料のステータスが変わったりするなど運用上のダメージは大きい。同期作業中は新旧両システムに人間の手が加えられないよう、データベースはロックされ検索はもちろん一切のデータ追加もストップする。

 最初のシステムを構築した1996年以来蓄積されてきた、-いや各機関で「桐」やらDBaseなどで管理していた時代を含めるともっと古い-何万件もの書誌データたちがハードウェアやDBMSのくびきを解かれ、純粋なデータの奔流となってネットワーク上を移動する、4年に一度の機会。

 これらデータの呼び出し方法も、1996年のCUIのみから2000年にWebを追加、新システムではこれら対話形式のインターフェースに加え、OpenSearch、SRW/SRU、OAI-PMHによる機械同士のデータのやり取りをサポートする。だが、これらの機能も、肝心な書誌レコードがなければお飾りに過ぎない。

 移動する書誌レコードたちは何を思うだろう。人間の気まぐれで4年に一度移動を強いられることは不満だろうか。それとも、システムに閉じ込められずに「出口」が徐々に増えてゆき、自由が増すことを歓迎してくれるだろうか。

 書誌レコードは流動する。誰かがどこかで作成した書誌レコードが、時に複製され各種のMARCとなって全世界を駆け巡る。TRCMARCはOCLCに提供され、NACSIS-CATは諸外国のMARCを参照用に流用できる。NDL-OPACのデータはこの2月からダウンロードが可能になった。共通するのは、世界のどこかの図書館システムのハードディスクに収まってそこで終生を過ごすこと。

 器であるDBMSやハードウェア、検索インターフェースが変遷を繰り返しても、同一の書誌データを投入すればその図書館の目録システムとして機能する。ならば図書館システムの「主」は書誌レコードではなかろうか。

 書誌レコードや図書館システムに意思があるのなら、何を望むだろう。自身の進化か。自らの複製を外部へばら撒きたいのか。

 3月2日(月)12時に次の4年を担うシステムが稼動を開始する。外部APIの追加実装以外はほとんど変更はない。いや、業務系はもう変えようがない。

 少なくとも、書誌レコードが自ら今のシステムを捨てて移動する、そんなシステムにした覚えはない。


 「戦闘妖精・雪風」(「改」じゃないぞ)のラストシーンを読みながら、そんなことを考えてみました。中2病?


射手座☆System must be late!

…射手座生まれの図書館退屈男です。許されないのは偽りの完成図書。

リプレースまであと10日を切った弊社システムですが、3月2日の朝には順調に稼動できるのかどうなのか。

ここ数日は、連日小分けで届く購入図書の受入やシステム更新に伴う停止日程のアナウンス、その隙間に入るベンダからの動作確認依頼や横断検索に必要な各種DBのID設定、毎度おなじみNACSIS-CATの書誌調整連絡だ誌名変更だ情報源出さなきゃ、ああそうだメーリングリストも止まるからアナウンスを、いや待て買い置きの紅茶が切れてるぞ、今頃仕様の確認ってそれは去年連絡済だったはずだけど聞いてない?私の歌を聴けいや送ったメールを読み返してくださいお願いします、勇気も希望も明日もあるのか、いや明日も動作確認が待っていると思ったらもう今日だ、ということで何から手をつけていいのかもわからなく忙しいです。

今回のシステム更新の目玉は横断検索とOPACのAPI強化。「何をいまさら」と思うかもしれませんが、MetaLibのAPI拡張オプション、X-Serverの投入でよりcoolなインターフェースを実現しました。本格的なサービスインは4月になりそうですが、3月にはトライアルを始めたいです。

で、ちょっとだけ見せして今日はねます。