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「国会図書館の本、全国で閲覧可能に」を深読みしてみた

 貴重な名著をいつでもどこでも読めるように――。3000万冊を超える国会図書館の蔵書をデジタル化して全国で閲覧可能にするための法改正に政府が着手する。まずは都道府県立図書館の専用端末と接続。将来はインターネットを通じて自宅やオフィスで簡単に読めるようにする方針だ。
国会図書館の本、全国で閲覧可能に 3000万冊をデジタル化(NIKKEI NET)

の件。はてブでも大変な盛り上がりです。

NIKKEI NETの記事にはありませんでしたが、1月7日付け日経新聞夕刊1面を飾ったこの記事のポイントは以下の5点。

  1. 「国会図書館の蔵書をデジタル化して全国で閲覧可能にするための法改正に政府が着手する」
  2. 「まずは都道府県立図書館の専用端末と接続」
  3. 「図書館同士の電子情報の送受信を認めていない著作権法を改正」
  4. 「大学やネット関連企業などと連携し、ネットを通じて利用者が自身のパソコンで閲覧や一部複製ができるようにする」
  5. 「国立国会図書館の(略)江戸時代以前の印刷物や政治家の日記など貴重な資料も保有している。デジタル化は1%未満で、こちらの作業促進も課題」

以下はすべて図書館退屈男の予断によるものです。著作権法についてはお詳しい方が多いかと思いますので、間違いがあればご指摘下さい。

1の「法改正」については、3で「著作権法を改正」とあるので、対象は著作権法(以下「法」とします。)でしょう。図書館での複製については法第三十一条(図書館等における複製)で以下の場合に認められていますが、ネット上で閲覧や送信を可能にするため、図書館の蔵書の電子化を行うには少なくとも「送信可能化権」について、別途許諾を得る必要があります。これが現状です。

一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

二 図書館資料の保存のため必要がある場合

三 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合

そこで、「図書館同士の電子情報の送受信」を可能にするため、「著作権法を改正」するものと思われます。対象はおそらくこの第三十一条。

著作者が保有する「公衆送信権」と「送信可能化権」を制限し無許諾でこれを行える例としては、法第三十五条(学校その他の教育機関における複製等)等があり、

公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)を行うことができる。

という書きぶりになっています。法第三十一条についても同様の文言を加えるのかなあ、と推測できます。
 ただし、法第三十五条では

ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

と但し書きがあり、むやみには行えません。このあたりから、2の「まずは都道府県立図書館の専用端末と接続」という表現になったのでしょうか。ちなみに、現行でも図書館等から国立国会図書館の所蔵資料を貸借した場合は国立国会図書館資料利用規則第五十条により「所定の閲覧室で利用させるもの」と定められており、この規則とも整合性が取れています。
 また、4ではわざわざ「一部」「複製」となっており、この表現は法第三十一条の

一 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合

の「著作物の一部分」に相当すると読むのかな、とも思います。

 まとめると、公衆送信権及び送信可能化権を図書館等において制限することが著作権法の改正により可能となり、所蔵資料の電子化とネット上での送信、閲覧、複製を一定の範囲内で行うことができるのではないか、と推測します。また、2と4の「大学やネット関連企業などと連携し」を併せて読めば、無尽蔵に提供範囲を広げるのではなく、法改正は大前提としてもまず現行の規則等々と整合性を取りつつ開始し、所蔵資料へのアクセスポイントは特定しつつも徐々に範囲を広げる、という落とし所が見えてきます。

 あとはその範囲ですが、著作権法施行令で図書館資料の複製が認められる図書館等を定めていることから、可能な図書館を国立国会図書館に限定することも考えられます。また、電子化を図書館で行いオンラインでの閲覧はできても、利用者による複製は現行の法第三十一条の範囲内に限る、などさまざまな制限が課せられそうです。そもそも、図書館での電子化があらゆる出版物に対し無許諾で行えるようになるのか、あるいは一定の制限が課せられるのかが気になります。5で「デジタル化は1%未満で、こちらの作業促進も課題」とあるので、現在国立国会図書館で行っている近代デジタルライブラリー相当の電子化事業は行えるように読めますが、どうなるのでしょう。

 閲覧についても、海外ベンダから提供が始まった電子図書のように、リアルの図書と同じく同時にアクセスできるのは1人だけで「貸し出し中」の場合は他の人は読めない、とかありそうです。

 そもそもの話をしてしまえば、この記事、1の通り「法改正に政府が着手」と書かれています。狭義の「政府」が行政府を指すとするならば、立法府に属する国立国会図書館が主体とは読めません。でも見出しは「国会図書館の本…」。そして「デジタル化は1%未満で、こちらの作業促進も課題」と突き放した表現。一体誰が「着手」するのでしょうか。そして予算は。

 まだまだ分からないことが多い話ですが、複写物を電子化してメールで送信できるようになるだけでも利用者の利便性は上がるので、良い方向で進んでほしいと願います。



【1/8 23:30 追記】

はてブコメント経由でid:tsysobaさんから

知的財産推進計画2008、というところがポイントかと。

とコメントを頂いたので調べましたところ、知的財産戦略本部会合(第18回)議事録(H19.12.13)によれば、角川本部員の発言として、

 そういう中で、経産省が「情報大航海プロジェクト」というものを立ち上げております。これも非常に重要なことでして、日本発の情報検索の技術を開発と普及していこうということですけれども、現実には、今、日本の書籍が79万点、それから学界の学術文献情報、また総理もご関心をお持ちの公文書館資料の国民への開放、また各省庁のホームページの利用、それから、そこには書いてありませんけれども、国会図書館には880万冊の蔵書があります。これらの情報をデジタル化して、その利用を図っていただきたいと思います。
 そのためには、今、相澤先生からもお話がありましたように、制度障害、壁となっています著作権法を改定して、サーバーを日本に置けるようにしていただきたいと思います。今、日本は、サーバーが国内に置けないという形になっておりまして、それについて、日本にもそういうサーバーを置いて、日本に検索技術会社をつくっていかなければいけないという問題意識を持っていただきたいと思います。

との発言がありました。(赤字は図書館退屈男による。)

発言中の「そこには書いてありませんけれども」の「そこ」とは知的財産戦略本部会合(第18回)議事次第(H19.12.13)の[資料4] (角川本部員配付資料)です。なお、「880万冊の蔵書」は図書所蔵数を指します。(これに雑誌等を加えて3000万冊。)

 このあたりが出元のようです。ご指摘ありがとうございます。

 そうか、これをネタにして所蔵資料電子化についてのH21年度の予算要求をすればいいのか!(いいのか?)

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