電子図書館のその先は(2)
公務と理想

うぇぶ2.0の器量を伏して

 前回のエントリが業界内に静かな波紋を起こしたようで、軽くどきどきしています。先日も、ILLのご依頼を頂いた大学図書館の方から、返信のメールで「考えさせられた」とのコメントを頂きました。お読み頂きお礼申し上げると共に、この辺境のblogが一助になれば幸いです。同時に、「ああ、あちこちで読まれているので悪いことは書けない」と思う次第です。

 さて、今日は内部の図書館システム担当者向けセミナー(ILLのみ)講師、明日は専図協全国研究集会、来週8日(金)はNIIのCSIワークショップと講師が続く今日この頃です。感想などコメント頂ければうれしいです。

 そんな業務の合間を縫って、「国立国会図書館月報」なども読んでいます。「平成18年度書誌調整連絡会議を終えて」(2007.3, No.552, p.14-18. 報告については平成18年度書誌調整連絡会議記録集(PDF, 1037kb)が詳しい)を見ると、調査研究目的で提供されているNDLSHのテキストファイルが、XML化や検索システムの組み込みの検討などに利用されるいるようです。今後のNDLSHの提供方式の検討につなげていきたい、とのことですが、Webサービスなどでの提供を期待したいところです。
 デジタルアーカイブポータルについては、ダブリンコアに基づくDC-NDLを拡張したndldapを定義、データ提供元に対して最大限のメタデータ項目を含む仕様を提示するほか、相手機関の仕様を受け入れられるよう柔軟に対応したい、とのことです。Opensearchも話せるようなので、うちのデータも受け入れてくれるといいなあ、と思ってみたりします。申請書とかいるのでしょうか。

 また、書誌コントロールに関連したコメントとして、

また昨今、現在のOPACは時代遅れとして、Web2.0を意識したOPACの改善提案がなされたりしている。しかし、連想検索機能を持つWebcat Plusよりも従前のWebcatの方が使われているとのアンケート結果に見るように、OPACを改善したり、新しい機能を加えたりする方向はさほど支持されていないと言える。
(国立国会図書館月報, 同号. p.18)

(前略)OPACをアイディアだけで「改善」したり,新しい機能を加える方向は利用者にはさほど支持されていないと言える。
(平成18年度書誌調整連絡会議記録集 p.41)

 と高所からばっさり断言されてしまいました。Webcat PlusがWeb2.0を意識しているかどうかは別として、そうですか。Web2.0なOPACは微妙に支持されていませんか。アイディアだけですか。そんな気もしているのは確かですが。明日Web2.0なセッションで話さないといけないのですが。テンション落ち気味です。

 Webcat Plusの連想検索は決して嫌いではないのですが、完全一致で書誌を同定できるWebcatとは検索の方向性が違うので、同列に論じるのはどうか、とも思います。業務で所蔵を調べるなら迷わずWebcatですが、知らない分野の資料を探したい場合はWebcat Plusですねえ。連想検索自体は例えば新聞記事全文などそれなりのボリュームの文章を入れないと効果が発揮できないですし。ただ、その違いを利用者に理解してもらうことが難しいのかもしれません。検索語をどう投入して検索をかければ、期待されている結果が表示されるのか、直感的にわかるようにする必要があるのでしょう。これは他のシステムでも同様です。

 OPACの改善や新機能追加などについてはどうなのでしょう。図書館業務上の利用であれば現状のように特定の書誌を確実に同定できる機能さえあれば十分ですが、例えば一般の利用者や書棚をブラウジングするごとく検索したい、という機能を提供するのであれば連想検索やタグクラウドといった実装は効果があるのではないか、と考えます。
 また、WebAPIの実装により、例えばデジタルアーカイブポータルの横断検索のターゲットとしやすい機能を持たせておく、などは有効かと思います。
 いずれにしても、海外等で進んでいるWeb2.0/Library2.0な機能の実装について、利用者による評価は知りたいところです。

 それとも、APIの実装やレコメンドや関連資料、書影を表示、なんていうのはamazonとかの本屋さんに任せておき、OPACは時流に流されることなくもっと図書館業務寄りで安定したシステムとして作るべし、ということなのかもしれません。開発者的には楽しくなさそうですが。

 図書館退屈男心得の条。我がしすてむ我が資料我が物と思わず、目録検索の儀、あく迄陰にて、うぇぶ2.0の器量伏し、ご下命、いかにても果たすべし。尚、死して屍拾う者無し。死して屍拾う者無し。


 九州方面の方、お待たせしました。(別に待っていなかったらごめんなさい)
 8月後半に長崎での講演のオファーを頂いておりますので、よろしくお願いします。

コメント

wono

OPACの使い勝手は図書館員に聞いてはいけない、気がします。だって、書誌を同定、とかNCIDで検索、とか普通の利用者はそういう使い方しませんからね。
OPACを館内配架場所検索機だと割り切ればよいのでしょうか?
Webcat Plus はナビゲーショナルクエリについてチューニングすればかなり使えるはずです。今はたしかに図書館員的使い方なら「一致検索」の方がいい、ということになるのでしょう。Webcat Plusの「一致検索」ですらなくWebcatがいい、というのは単に慣れの問題かと。

SUG

wonoさんに同感です。
Webcat Plusは、完成度を別とすれば、分類・件名といったバッドノウハウを乗り越えるエポックメイキングなシステムではないでしょうか。
OPACの今後については自分ははっきりした考えがないのですが、なんというか、なにかの「部分となる」方向の進化を目指すのがよいのではないか、というのが現在のところのぼんやりとした印象です。

川蝉

お二人のコメント後に書くのは恐縮なのですが、九州方面から、お引き受けいただけて御礼申し上げます。お会いできるのを楽しみにしています。

図書館退屈男

wonoさん、SUGさん>
せっかくコメントを頂いたのに遅レスですみません。
実は自分も「OPACの今後」についてはanswerを持ってはいません。現状は、対象資料の要旨や全文が引ければbestなところを、それが苦しいので分類や件名でカバーしてしていると状態であると思います。
「検索語を考えるのも負担」ということになれば、あとはブラウジングとかシステムからの関連語提示に頼らざるを得ないのかも。その意味ではタグクラウドも見せ方さえ工夫すれば使い物になるかもしれません。
物理的に現物が見られない、remoteで本を探すことに対するbestなソリューションってなんでしょう。もうちょっと考えてみたいと思います。

川蝉さん>
ご無沙汰してます。8/25に長崎入り、翌26日にお話をさせていただく予定です。よろしくお願いします。

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