図書館退屈男が「図書館戦争」状況〇三を見る
多忙という闇を抜けて

国立情報学研究所の「本気度」を推し量る - 「CiNiiのいま、これから」

6月6日(金)にNIIで開催されましたワークショップ「CiNiiのいま、これから」に行ってきました。

「学術コミュニティに不可欠の共有財(コモンズ)」を標榜する国立情報学研究所(NII)の情報サービス、論文情報ナビゲータ「CiNii」。その決意が本気であること、2009年4月に現れる次期CiNiiは、付け焼刃のシステムとインターフェースの改善ではなく、各方面の専門家を動員し綿密な評価と最新のWeb技術を意識して設計されるものであること、それが読み取れるワークショップでした。

タイトルからは、「現状の報告と今後の展開」的なものを予想していましたが、現状はともかく、「これから」について具体的な内容は、資料でもプレゼンでもほとんど語られません。仕様書案の確定が近いと思われるので詳細を語れなかったのでは、と邪推しますが、ワークショップ全体を見渡すと「これから」の姿がおぼろげに見えてきます。

以下、例によって図書館退屈男がワークショップの資料とパネルディスカッションの聴講による予断だけで深読みして語ります。裏も言質も取っていないので、2009年4月の公開時に全く違っていたら一笑に付して頂きたく。
当日の具体的な質疑などは min2-fly,"CiNiiのいま、これから", かたつむりは電子図書館の夢をみるか. (http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080606/1212774613) 2008-06-06. [last access:2008-06-07] を適宜ご参照ください。

  1. ユーザインターフェース、API
    • 客観的な評価に基づき、学術研究機関での一般的なユーザを意識したものとなる。
    • 現行のフィールド指定形のインターフェースは残る。あるいは複数用意される。
    • なんらかのWebAPIは用意される。

    篠原さん(ソシオメディア株式会社)のご発表の通り、ユーザインターフェースの設計とユーザビリティ評価を専門とする同社により、現行のCiNiiについてユーザビリティ評価が行われたことが明らかになりました。既知の経験則と比較しての分析(ヒューリスティック評価)と、被験者を使って実際にCiNiiを操作し発生した問題を抽出するユーザビリティテストが行われています。
    その結果、「『詳細検索』を使う傾向が多い」「本文にたどり着くための導線が混乱している」との問題点が明らかになり、

      「一般的なウェブシステムとしてのユーザビリティと、文献検索に特化されたアプリケーションツールとしての有用性の双方を確保することが必須」

    という改善策が提示されています。
    現在の情報サービス提供にあたって、民間企業なら当然実施する評価ですが(岡本さん(ARG)も、「(CiNiiは)民間情報事業者の目で見たら突っ込みどころは多い」と言及しています。)、図書館サービスの世界ではここまでの取り組みは稀ではないでしょうか。このような評価手法は実際のところ結構費用がかかるものなので、なおさらそう思います。

    そして「想定されるユーザ=被験者」は誰なのか。当然、システムを利用されることが想定される利用者層から被験者を抽出し、報告の段階では具体的な主体はぼかされることが多いですが、思わぬところで明らかになりました。パネルディスカッション前段のパネラー同士の質疑で、発表者の一人である清水さん(千葉大学法経学部)が被験者であったことを明らかにしました。これは想定外だったのでは。経済学を専門とする清水さんからは、自らの立場と周囲について「CiNiiについては素人、無知」「周囲も『しぃあぃえぬあぃあぃってなに?』(笑)ぐらいの知名度」などとご発表されています。同時に、「ヒット件数が多すぎる」「これ以上ヒット件数を増やす全文検索は不要。タイトルと抄録だけで内容がわからない論文はそもそも役に立たない。」と言及していることから、それなりに使い込んでいるヘビーユーザであることも想定されますが、「CiNiiをよく使う利用者層」の一人としてNIIが認知し、その利用方法を教師データとしてインターフェース設計を行っていることは想像に難しくありません。

    また、質疑応答で、「現行のフィールド指定形のインターフェースが学生への教育には有効。残してほしい。」と質問があり、これに対してはシステム設計を担当した大向さんから「残す。いろいろなパターンのインターフェースが考えられる。」と回答があったほか、大向さんのご発表やその他の質疑でも

    • 「ウェブAPIによるエコシステム作り」
    • 「APIは開発者向けに強化」
    • 「システム側では多様なインターフェースを作れるよう準備する。デフォルトから外れたユーザに対してはこれで対応する。」

    との発言がありました。また、岡本さんのご発表でも、RSS配信やAPIの実装についての提言もあり、開発者の存在を念頭に置いたWebAPIの実装は確定したと考えます。あとはどのようなメタデータ要素が返ってくるかだけが心配です。(独自拡張なDCとかだと受け取る側は泣けるので。)

  2. 他システムとの連携
  3. CiNiiはOpenURLに対応し、これによるデータの送受信が可能です。また、自館のOPACへのリンクも形成可能です。機関定額制契約機関では、この機能により検索結果に本文へのリンクがなくても自館で利用しているリンクリゾルバやOPACへのリンクを自動生成し、ここから全文を入手することができます。筑木さん(京大付属図書館)さんのご発表では、この機能を利用した京大のArchcleLinkerとのリンク、またCiNiiとGoogleの連携によりCiNiiの利用回数が増加しているとの報告がありました。また、質疑応答でも、「OPACとの連携機能を活用しているので、できるだけ仕様は変えないようお願いしたい。」との要望も出されています。弊社でも、CiNii同様にデータベースの検索結果から自機関のリンクリゾルバへのリンク機能を実装しベータテスト中ですが、ありがたいことにご好評をいただいています。これらのことから、OpenURLによるリンクリゾルバやOPACへの連携機能は継続されるでしょう。

    これも筑木さんのご発表からですが、5月にNIIからα版がリリースされた「研究者リゾルバー」と連携し、著者名の漢字表記とローマ字表記をリンクし和欧両方の論文をまとめて検査できるのでは、との提案がありました。また、大向さんのご発表に「情報源としての人」を重視し、「人→論文」「論文→人」の検索について言及があったことから見ると、研究者リゾルバーの存在は無視できません。研究者リゾルバー側のロードマップが見えないのでなんともいえませんが、何らかの形での「著者名での論文間のリンク機能」が考えられているのかもしれません。

  4. システム全般
    • システムアーキテクチャの刷新。
    • 更なるアクセス増に耐えうるシステム作り。

    最近、CiNiiが重いと思っていたのは自分だけではなく、実際に平日の負荷は高く、特に午後2時ごろはNII内でも「魔の時間帯」と呼ばれるほどの高負荷となっているそうです。対して土日休日と8月(夏休み)は利用が少ないとのことで、大学等が利用の主体であることが再確認できました。
    大向さんのご発表でも触れられていましたが、経年の負荷増の見極めは難しく、現システムについていえば、Googleとの連携以降の利用増もあり「利用がここまで増えるとは想定されていなかった」とのこと。かといって、最初から利用増を見越してシステムのスペックを上げておいても、使われなければ「無駄無駄」との文句も出るだろうしで苦労されていると思います。
    具体的な実装については言及はありませんでしたが、「アクセスが増えるならそれに耐えられるシステムを作る」という前向きな姿勢は感じられました。

さて、大きく3点に分けて妄想予想してみましたが、冒頭の「CiNiiは『学術コミュニティに不可欠の共有財(コモンズ)』になりつつあり、変えてゆかなければならない」との尾城学術コンテンツ課長の挨拶に始まり、

  • 利用者
  • 図書館員
  • 情報リソース専門家
  • 情報デザイン専門家
  • 新CiNii開発者

の発表は、一見それぞれの立場からの個別の意見要望に見えましたが、大きく見ると個々の発言はすべてが相互に関連し、「フムン、次のCiNiiはこう打って出るのだな」と想像するに十分な情報量でした。同時に、そう思わせてしまうコーディネートの巧みさに感心してしまいました。(単に釣られただけとも言う。実際は違っていたらどうしよう。)


質疑応答の最後には、「国家政策として、NDL、JST、NIIの3者がばらばらに動いている現状をどう見るのか。それぞれの特色を出したいのはわかるが、一般から見ればどれも同じに見える。仲が悪いのはわかる(会場:笑)が、日本語の論文を世界に発信するという観点から協働について考えてほしい。」との趣旨の発言がありました。
司会の阿蘓品さん(NII)からは「仰る事はよく解るが、正直ぐさっと…」と苦しそうでしたが、図書館退屈男はとりあえずは現状でもよいのでは、と考えます。

NDLはPORTAで異種デジタルアーカイブの統合検索とAPI実装を実現し、NIIもCiNiiのOpenURLによるリンクの実装とNACSIS-CATの構築、JSTではJOIの開発による論文識別のためのフレームワークの実現と「科学技術用語シソーラス」の維持管理とそれぞれ特色ある事業に取り組んでいます。NIIとJSTはターゲットが学術分野だけに重複の感は否めず。

これに対する回答は、篠原さんのご発表の中での

  • 「偏在から遍在へ」
  • 「情報をコントロールするのでは、情報をナビゲートするのが専門家の役割」
  • 「情報は囲い込めないし、囲い込むべきではない」

といった方向性ではないかと考えます。
それぞれの主体がAPI等の公開により、特定のポータルではなく「どこからでもどのデータベースを検索できる」環境になれば、それぞれの特色を生かしたサービス展開もより有効なものになるのでは、と夢想します。(JSTさんがシソーラスを公開してくれれば、とか。)

「経由はどこのポータルサイトでもリンクリゾルバでもgoogleでもかまわないので、最後は自館しかないコンテンツにアクセスしてもらう」が落とし所ではないかと。

情報サービスについて他者との連携が容易な環境は整いつつあります。あとは手を繋ぐだけでは? 
でも、それが難しいから問題点としてあちこちで指摘の声が上がるのですよね。それは期待の裏返しなのですが。


名刺交換のたびに、「blog見てますよ~」と言われるのに続き、最近では「見てない人なんていませんよ!」(本当?嬉しい!)と言われる割には更新が遅れ気味です。

5月は、

  • 次期図書館システム(09年3月リプレース)仕様書案作成。
  • 8月の国際会議(IAALD-AFITA-WCCA2008)のProceeding作成。口頭発表のほか、パネルディスカッション(New Developments in Information Systems for Accessing Agricultural Research(仮))にもRSSネタで登板予定。早期登録割引は6月10日締め切りです。

など山のような仕事を抱え込んで凌いでいました。なので「図書館戦争」も状況〇四以降は録画したまま見られていない挙句にこのblogも更新できず。

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