図書館退屈男の謎(後編)
インターネットの中にあるたいせつなもの

サービスを終了させる、ということ。

 Webサーバのコアとなるシステムの3回目のリプレースが行われた。このシステムは1995年に稼動を開始し、当時はWeb、gopherからanonymous FTP、netnews、proxyサーバとして、またWeb/Telnetによる文献検索サービスなど多くのサービスを運用し、後のサービス拡大のためのテスト環境ともなっていた。1999年のリプレースからWebに特化したシステムとなり、2003年からはこれにRSSによる新着情報配信サービスなどを加え、現在に至っている。今回のリプレースでは、外部から利用可能なAPIとしてOpenSearch、OAI-PMHの実装とデータ提供環境が加わった。こちらは調整が予定より遅れており、来年には公開できるだろう。
 
 その一方で、前システムの運用終了を持って停止したサービスもある。「検索システム農林一号(旧名:サーチエンジン農林一号(仮称))」と「農林水産研究関係インターネット資源への道」の2つである。詳細はこれらのページに発表資料へのリンクがあるので、そちらを参照されたい。
 前者は農林水産研究関連のWebサイトに特化した検索エンジン、また後者はディレクトリサービスで、弊社が提供する農学分野におけるサブジェクトゲートウェイサービスの一翼を成すものであった。今回のリプレースでの継続運用も検討されたが、Googleなど他の検索エンジンとの競合、これらの運用やディレクトリ作成に必要な人的リソースの不足などから、やむなくサービスの停止に至った。

 「サーチエンジン農林一号(仮称)」は、自分がWebの主担当係であった時にテスト環境の構築から運用までを手がけたサービスでもあり、またおそらく弊社のコンテンツの中で唯一Yahoo! Japanでcoolマークを付与されたもので、個人的な思い入れもあったが、状況を考えると停止もやむなしと思う。
 他のサービスとの差別化に失敗した、という面もある。Vivisimoで実装されている検索結果の自動クラスタリングや、流行のファセット検索なども持たない旧態依然の検索エンジンでは、「農林水産研究に特化した検索エンジン」というコンテンツだけでの差別化には限界があったのかもしれない。また、ロードマップ上には「検索結果として表示したWebページをクリックすると、次回はそのページを取得してデータベースに加える」自動成長型検索エンジンを「サーチエンジン農林二号(仮称)」としてロールアウトさせるプランも存在したが、諸般の事情でこれは実験のみで終わってしまった。そして、自分自身、今回リプレースとなったシステムの主担当ではなく、新規機能の提案をしたのみで設計と構築にはほとんど携わっていない。

 実験ではなく、公式に提供しているサービスを停止する、ということは現在の担当者にとって軽い選択ではなく、おそらく限られた開発期間や資源をどう配分するか、という中での苦渋の決断ではなかったかと思う。
 弊社のサービスはどんどん枝葉を生やし、拡大していった。図書館総合展などではスタッフの人数を問われ「よくこの人数でこれだけのサービスが」と言われることもある。正直その通りで、もう余裕はなくなりつつある。新しい手法をテストすることはできても、運用フェーズに持ち込むためには定常的なリソースを確保することが必要になる。それは周囲の協力や合意であったり、予算であったり、人であったりさまさまであるが、個人の力に頼らず、組織として、業務として運用しなくてはならない。特に人的リソースは減少している。時には枝葉を剪定して、全体のバランスを取ってゆくことも必要なのかもしれない。理想論かもしれないが。

 いくつかの個別のサービスを終わらせても、全体としてより有益なサービスを提供する。難しいが、正しい評価に基づき、続けるべきこと、止めるべきこと、そして新たに始めることを考える時期に来てしまった。個人的にも、トライしたいことは山のようにある。だが、どれだけのアイディアや試験したサービスを運用まで持ち込めるだろう。全部は不可能でも、何かに書き残しておけば、誰かがどこかで実現してくれるかもしれないとも思う。
 幸いにも、今回終了したサービスは発表の機会に恵まれた。得られた知見などを書き残せた、それだけでも有益だった、と取り合えずは考えることにしよう。前向きに。


 発表をさせていただきました11月17日(土)開催の整理技術研究グループ2007年11月月例研究会の記録資料(PDF, 3.4Mb)が公開されました。機会を与えていただきました関係各位に、この場をお借りしてお礼申し上げます。

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