図書館退屈男の謎(前編)
2007/12/02
私が彼と初めて会話を交わしたのは、とあるセミナーの懇親会だった。ネットではよく見るが。
講師をしていたある女子大図書館のチームリーダーと名刺交換をしている姿が、そこに見えた。
「…さんって、本当にいたんですね! ネットでしかお見かけしないから、本当にいらっしゃるとは思いませんでしたわ。そう言われません?」彼は軽妙にその問いをかわし、「ええ、よく言われますよ。」とにこやかに答えていた。別の大学の女性は、「このセミナーに出たい、とSNSに書き込んだら、すぐに彼から「まだ大丈夫ですよ。」と書き込みがあって。もう締め切りは過ぎていたのですが、事務局に電話したら大丈夫だといわれて。おかげで助かりました。」と話しかけていた。
確かに、彼の名前はネットでしか見ないような気がする。続いて名刺交換をさせていただいた。当然だが、そこには実名と勤務先等が記されていた。ああ、実在したんだ。そうだよな。そのときは気にも留めなかったが。
別の講師で、国内外の図書館に関する記事をblogやメールマガジンで紹介するサービスを行っている図書館の編集担当者とお話しすることができた。「オープンソース系のネタを紹介すると、彼…言っていいのかな…図書館退屈男さんのblogに「試してみました」とそのソフトをレビューした記事が載るんですよ。割とすぐに。」「おかげで、読んでもらえている実感もあるし、実績にもなって上も喜んでいます。」すぐに、か。きっと暇なのだろうな。退屈男と名乗るだけのことはある。
2時間ほどで懇親会はお開きとなった。自宅に戻り、彼…図書館退屈男のblogを読み返した。確かに、IBM OmniFindだのLibxだのといったソフトウェアのレビューについてはレスポンスが早い。だが、早過ぎやしないか? どう読んでも、記事を読んでからすぐテストしているように見える。Googleツールバー用検索ボタンに至っては、それを京都駅のマクドナルドで知ってその場で開発したとある。どこにコーラS(100円)だけでそんな作業を、しかも氷が完全に溶けて水になり、それまで飲み干したまま作業する人間がいるのか。非常識だ。100円のコーラぐらいおかわりしろ。PORTAのべた褒め振りもありえない。あの記事だって、公開直後だ。そういえば、別の女性も「すぐに返事が」と言っていた。どうも変だ。ちゃんと仕事しているのか。気になってきた。
翌日。上司からセミナーの企画をするよう命じられた。テーマは何でもいいそうだ。ちょうどよい。「彼」に頼んでみよう。実績もあるようだし、何か面白い話でも聞けるだろう。
早速、名刺に会った連絡先に電話をかけた。ところが、女性の声で「ただいま会議中で…午後も予定が…」とのこと。意外と忙しいのだな。後でメールをする、と言付けて電話を切った。結局、その日はこちらも業務に忙殺され、メールはできなかった。
翌週。メールでは細かい調整は不便だ。先に電話をして、詳細はメールで送ることにしよう。そう考えていると、受話器からは先日の女性の声で「今日は東京に出張しておりまして…」。仕方がない、また後でメールをする、と言付けて電話を切った。こちらも時間がない。今度はすぐにメールをしたため、送信した。驚いたことに、3分後に返信があった。詳細は上司に確認しないと分からないが、日程と内容はOKとのことだった。どこにいるんだ。まあ、最近は携帯電話からでもメールは読み書きできる。まめな人なのだろうな、ぐらいにしか思わなかった。
ところが、その考えはすぐに打ち破られた。1時間もしないうちに、「上司の了解が取れた。追って様式を送るので、文書で派遣依頼をいただきたい。」との返信がメールであった。どこに出張しているのか。いつ上司と調整したのか。おかしい。カラ出張か? そうだ、実際に会ってやれ。ぜひお会いして打ち合わせしたい、と返信した。これにもすぐ返信があり、OKとのことだった。このレスポンスの速さは異常。やはり何かある。
こうして、私は彼の職場へ見学も兼ねて出向くことになった。そこに何があるのかも知らずに。
(続く)
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