認定制度の価値を問うな
2009/06/04
日本図書館協会2009年度総会における第五号議案「専門職員認定制度について」の審議結果。
◆図書館界ニュース
○日本図書館協会総会等を開催
日本図書館協会は5月27日から理事会、評議員会、総会をそれぞれ開催した。
(略)
専門職員認定制度については、実施およびそのための組織の立上げを内容とする提案であったが、総会においては保留が多く採択されず、今後の扱いについては常務理事会で検討することになった。
(JLAメールマガジン 第456号 2009/6/3発信 より)
以下、配布資料による議事概要と、主な質疑をまとめました。当然ですが、以下は正式な議事録ではありません。仔細については追って「図書館雑誌」に掲載される議事録をご参照いただくことをお勧めします。また、事実と異なる場合は訂正しますのでお知らせください。
○議案の概要(総会資料による)
- この制度は、図書館司書のキャリア形成や社会的地位の向上に資するものである。
- 2008年度に中堅職員ステップアップ研修や図書館司書専門講座の受講者、全国の都道府県立図書館や政令指定都市立図書館の司書を対象にアンケート調査を実施。7割以上が制度に肯定的で、半数近くが申請意思あり。(提案者補足:都道府県立図書館を通じて県内市町村立図書館にも調査依頼を行った。)
- 予備審査の申請を募集したところ、全国から81人が応募。これをもって制度への関心や期待の高まりを把握するとともに、認定制度の全体的な枠組みや認定作業の実現について確認。
- この制度実行のため、「専門職員認定審査委員会」(常務理事1名以上を含む10名程度で構成)を設け、この委員会の元に専門職員認定審査会を置く。事務局長含む委員5名。
- 認定対象者:アンケート結果を踏まえ、正規職員(司書有資格者)と非正規職員(司書有資格者)の双方を対象とする。
- 対象となる館種:図書館法第2条に規定する公共図書館を対象。それ以外の館種への拡張、可能性については、今後の課題として検討する。(提案者補足:公共図書館への限定は苦渋の選択であった。)
- 今後の申請見込:毎年度の中堅職員ステップアップ研修、図書館司書専門講座の修了者や全国の都道府県で行われる一定の研修の修了者等の申請を期待。以下の要素から10年程度は応募者数が保障されると考えられる。
- 2008年に関西開催の中堅ステップアップ研修(1)で多数の受講があったこと
- 予備審査において30歳代や40歳代の申請者が多かったこと
- 制度の社会的認知の増加に伴い、申請者の裾野が広がることが想定されること
- 今後、全国図書館大会で広報、制度説明を行い11月には募集、2010年3月の認定証交付を目指したい。
○主な質疑
- 予備審査に応募したところ、「申請者が認定にふさわしいと判断された場合は上司による推薦状が必要」と予備審査会から通知があり驚いた。ならば最初から上司の承諾を得る必要があるのでは。また、承諾がなければ応募もできないのではないか。
→ 上司の承諾の有無については検討している。今回は予備審査であり、今後の審査会で検討したい。 - 対象となる図書館が「図書館法第2条に規定する」と明記されているが、当館は第10条に拠って県条例により設立されている。齟齬はないか。
→ 対象となる図書館の書きぶりについては審査会で検討したい。 - 我々の業務は国民のためのものである。制度の目的にもこの点を加えるべきでは。
→ 加える。 - 現在職を失っていても認定される資格はあるか
→ 認定できる可能性はある。 - この認定を受けた者が他部署へ異動したり、指定管理者へ転職するなどの可能性はないか。児童サービスの研修を受けても直後に他部署へ異動する例などを実際に見、危惧している。
→ 他部署への配転の問題はJLA全体の問題と考えている。また、自らを向上させたい、という志のある者が指定管理者となってもよいと考える。 - 「専門職員」という語はすでに図書館法第4条に「図書館に置かれる専門的職員を司書及び司書補と称する」として現れている。司書不要、とはならないか。
→ この懸念から、以前の名称は「上級司書」としていた。具体的な名称は内部で検討したい。 - 第4号議案で公益認定法人への移行の案件もあった。協会として今後は多忙となり、また財政事情も厳しい。このような時に実施すべきなのか。
→ 今だからこそ実施したい。実施に当たっては独立採算とし、協会の予算には影響を与えない見込み。
(以下図書館退屈男発言)
- 「アンケート調査」であるが、認定要件となっている研修受講者に調査を行えば「制度に肯定的」となるのは自明。恣意的な調査ではないか。
→ 説明のとおり市町村立図書館、かつ経験の長い者に対しても調査を行っている。 - 「今後の申請見込」であるが、10年勤続が認定要件であれば20歳代では申請できないので「30歳代や40歳代の申請者が多かった」のは当たり前。大事なのは、「これから10年勤務して認定される者」がいるかどうかである。年齢別、特に20歳代の図書館員の数は把握しているのか。若手の採用が控えられ、正規職員は少なくなっている現状をご存知か。それがなければ、「申請者の裾野が広がる」ことは期待できない。
→ 具体的な数字は把握していない。認定制度については10年程度での更新を予定している。今後、雇用される者の力となるような制度としてゆきたい。
都合1時間の議事延長と40分を超す議論の末に採決となった。採決に当たっては委任状を出席と解すかどうか、また議長一任でない委任状の取り扱いについて議論があったが、上記のとおり採決において保留票が多かったこと、また評議員会でも保留が多かったことを重視し、本議案については再検討することを事務局が提案、これを議長が承認したため採決は持ち越された。
以下、感想です。
どうも練られていない、詰め切れていない案である印象を受けました。「公共図書館勤務者が対象」「10年で更新」など、今までの資料では公にされていない、あるいは読みきれなかった事項の存在や、質疑に対する答弁が明確でなく「検討する」などの表現が多く見受けられました。この場での提案が「専門職員認定審査委員会」の設置自体が主目的で、詳細な運用はこの委員会で検討するという前提であっても、ならば今までの検討は何だったのか疑問に思います。
定款を厳密に解釈すれば、第36条(表決権の委任)に基づき提出された委任状(2000通以上)を含め総会が成立(第29条(総会の定足数)(会員の10分の1以上=4800*1/10=480人。当日出席者60余名。))しており、議事は出席者の過半数で決定されます(第35条(議事の決定))。従って、「議長一任」とされた委任状の数を持ってすれば、本議案の可決も強行できたのではと考えることもできますが、あえて取り下げとしたのは事務局の状況判断が正しかったのでしょう。
「10年以上の勤務経験」という条件での予備審査応募数が81名。中堅職員ステップアップ研修(要勤務経験7年以上)の定員は30名。「これであと10年は戦える」と踏んでいるようですが、最初の81名が申請した後に続くものはいるのか、が課題でしょうか。また、「論文の執筆」が要件にありましたが、受け皿はあるのでしょうか。一概に比較はできませんが、医図協のヘルスサイエンス情報専門員(上級)の申請は第6回(2006/07)以降ありません。過度にプレミア化した認定制度は、資格自体の地位は高まりますが認知度はどうなのでしょう。もうちょっと低いハードルから初めてもよいのではないかと思います。もちろん、現状でまず試してみる、というのも有効であると思います。
こうして考えてゆくと、ハードルを下げると司書有資格者と限りなく同等になり、「司書の専門性とは」というメタな議論になりそうです。現時点で考えられている資格認定制度が「司書資格+所定の研修修了者」を基本とし、「所定の研修」はその他の研修の修了や論文執筆、社会的貢献を持って代えられるものとすれば、これらの要件は誰でも認められる要素として客観的に加点した上で「司書資格だけでなく不断の努力を積んでいる」として認定が可能なのではないか、と考えます。現状の「研修を修了=一定の知見を得ている」とする「研修」なり代替要素の認知度の問題なのかもしれません。
「研修により知見を得た」ことを認定するのか。あるいは研修によって高まった専門性を認定するのか。それは実務経験で得られた知見や専門性とは異なるのか。コミュニティや国民への貢献度を測るのか。問われたときに明快に説明できるのか。それとも、司書として持つべき知見や能力習得のためのキャリアパスの問題?
自らが歩んだ道を含めて考えると、単に勤務歴や研修の参加だけでなくスポット的な貢献や活動などをウオッチしつつうまく拾い上げ、評価できる取り組みがあれば10年といわず5年でもいつでも「+αを持つ司書」として認定する、そんな制度があってもよいのかもしれません。
「Library of the Year」はそのあたり柔軟ですね。そうか、アレの個人版を…。それこそどうやって決めればいいかわかりません。人気投票じゃないし。かつての「検索の鉄人」みたいに実技つき?フィルムコート張りとかレファレンスとか目録とか分類とかテーマ展示作ったりPOP張ったりブックトラックに乗ったり…。
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